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【YouSayのFloating Tide Blues/Vol.1 】#引き算のマジック

みなさま、おはようございます。こんにちは。こんばんは。おやすみなさい。そして、はじめまして。

デザイン、ものづくりの世界に生きております。

YouSayと申します。ユウセイと読みます。

 

私は普段、東京墨田区の銭湯「薬師湯」にて、デザイナー目線のコラムを書かせていただいております。

そのご縁から、今回この日刊サウナにて連載を持たせていただくことになりました。

このサイトをご覧いただく多くの皆様のように、私は熱狂的なサウナーではないかもしれません。

しかし、1銭湯施設の熱狂的ラバーとして、当連載を始めていければと思います。

記念すべき初回は、私が薬師湯にどんな魅力を感じているのか、薬師湯がどんな銭湯なのかというところを掘り下げていければと思います。

過去に書いたコラムと内容が被ってしまうのですが…是非読んでいただければ幸いです。

それでは、どうぞよろしくお願いします。

 

「最小限の人数でどこまでやれるのかが面白いと思っている。」あるアーティストはインタビューでそう答えていた。

彼は3ピースバンドで、作詞と作曲をしている。

3ピースというのは基本的にバンドという形態の最低人数。

彼らは「最小限」の人数で「最高」の音楽を目指しているということだ。

 

この世は足し算ばかりだ。生まれてからずーっと色んなものが足されていく。

「失うものだってあるから引き算じゃないか」という声も聞こえてきそうだが「失った」という経験が足されるわけで、基本的には人生は、死ぬまで足し算の連続だ。

あらゆる経験は人を成長させるので、足し算が悪いことだと一概に主張する気は無い。

でも、時に人は色々な足し算の積み重ねで疲れ果ててしまう。

少し足し算に疲れた人は、意図的に、引き算というものを頭に入れて生活してみるのも面白いと思う。

 

早速1つ試してみよう。例えば、何か施設を作るとする。

日刊サウナという媒体なので「あなたの考える最高の温浴施設」を思い浮かべてみてほしい。

あなたの望む理想のサウナ、温度違いで用意された水風呂。

炭酸泉や薬湯を含む様々な湯船…。

十人十色、皆さんのそれぞれの希望があるだろう。

でも3つ、4つと足していく中で、最初はワクワクしていた魅力の伸びしろが、少しずつ狭まったり頭打ちしなかっただろうか。

具体的に言えば、ドライサウナと水風呂に炭酸泉を足したとき、あなたの「最高の温浴施設」の魅力が0点から60点に上がったとする。

計算では、そこにミストサウナと露天風呂を足すことで100点になるはずが「どうやらまだ75点だな?」というような状態になってしまっていないか、ということだ。

10点でも15点でも点数が上がるのならばそれはもちろんいいことなのだけれど、もっともっと魅力が爆発した最高の施設ができるはずだったのに、いざ組み上げてみるとなかなか「自分の想像」を超えてこない。

何を作るにしても、そういうことは意外と起きやすい。

 

ここで重要なのが引き算だ。

先ほど思い浮かべた最高の温浴施設から1、2個の要素を取ってみて、その中で残した要素について、しっかりと「こうしたい!」と考えてみてほしい。

ドライサウナの理想図だとか、露天風呂の具体的な温度とか。

増やすのではなく減らし、厳選したものを研ぎ澄ます。

さて、頭の中でできあがったその施設は、足し算で作った「最高の温浴施設」よりもあなたにとって魅力的な施設ではないだろうか?

足し算の打開策となるのは、実は引き算なのだ。

足し算や引き算で積み上げられた魅力は、それぞれ「足し算」をもって弾き出される。

が、引き算で積み上げた魅力には、時に「掛け算」が起こる。

仮に、AさんとBさんの二人が先ほどの「最高の温浴施設」をそれぞれ考えたとして、最高点が100点とする。

Aさんが考えた大きな施設の評価は50点、20点、20点、合わせて90点。

一方、Bさんが考えた小さめの施設は、引き算の結果項目が減り、50点、20点、合わせて70点となった。

単純に考えるとAさんの施設に軍配が上がるわけだが、このBさんの施設には先述した「厳選し研ぎ澄まされた何か」がある。

そうすると、魅力の掛け算が起こり、50点x20点で100点を叩き出すことがある。

 

魅力の掛け算によって、足し算では届かないところにたどり着くことが、確実にあるのだ。稀ではあるけれど。

これを読んでいるあなたの頭にも、思い浮かぶ施設があるのではないだろうか。

私は、この魅力が引き起こす掛け算を「引き算のマジック」と呼んでいる。

 

それでも、世間は何かと足し算をしがちだ。

理由としては、何かをプレゼンする際、足し算の方が圧倒的に魅力を伝えやすいからだ。

1つの商品に「あの機能もこの機能もついてますよ〜」と語る通販番組など顕著で、魅力の説明を積めば、お客さんはポジティブに受け止めてくれる。

それに比べて、日常的に引き算されたものから魅力を感じ取るのは少し難しい。

なぜその何かを削ったのか、そういったことをうまく説明してもらう必要があるし、受け止める気持ちの準備も必要だ。

「あのお風呂屋さん露天風呂がなくなったよ〜」「サウナ2種類あったけど1つになったよ〜」と突然言われたら、行く理由が1つ減ってしまったなと思うかもしれない。

でも、その露天風呂に割いていたコストを内湯や水質の充実に当てるのかもしれないし、サウナを1つに絞ることで新たなサービスを始める可能性だってある。

 

引き算の魅力を感じ取るには、その奥に潜む先を見なければいけない。

「なくなった」というネガティブな感情に捉われてしまうと、そこで終わってしまう。

だから「受け止める気持ちの準備が必要」なのだ。

悲しい事実をしっかりと受け止めたその先には、新たな引き算の魅力があなたを待っているかもしれない。

 

前置きが長くなったが、薬師湯には引き算のマジックが掛かっている、
しかし、これはそんな都合よく起こるものではない。

それこそ音楽やデザインといった創作物なら、クリエイター自身の意図で狙うこともできるのだが、施設の場合は意図的にそう足し引きなどできるわけがなく、偶発的に起こることがほとんどだ。

 

少し有名な、スヌーピーの言葉がある。

友達の女の子、ルーシーがスヌーピーに「わたしはどうしてあなたが犬なんかでいられるのか不思議だわ。」と心ない一言をかけたが、スヌーピーは「配られたカードで勝負するしかないのさ。」と答えた。

スヌーピーは「もっと〇〇だったら」とか言ったって仕方ないと思っているのだろう。

だからこそ、配られたカードで目一杯人生(犬生?)を生きている。

薬師湯もスヌーピーと同じだ。

きっと「配られたカード」で目一杯勝負した結果、引き算のマジックが掛かったのだろう。

薬師湯は、私の中にふわりと浮かぶ引き算のマジックを明確に教えてくれた。

それを意識するまで、私は薬師湯に対して「これはこれでいいな」というような見方をしていた。

薬師湯を、大きな温浴施設とは別の箱に入れてカテゴライズしていたのだ。

 

しかし、地元に帰った際に訪れた某巨大温浴施設からの帰り「ここもよかったけど、薬師湯も全然魅力で負けとらんな。」と感じた。

限られた設備でこの魅力なら、もっと設備を足せば最強になるんじゃ…そう考えた私は脳内にイメージを展開する。

「サウナを大きくして…。いや、あの狭いスペースだから良いんだ。じゃあ露天風呂?…はここにあってもあまり行かないな。

あつ湯…っつっても温度が既に絶妙なんだよな。

そういえば、今日行った施設のアレとアレはあまり入る気にならなかったな。見るからに力も入ってないし…。というか誰か入ってたっけ?」

もっと薬師湯をよくするには?の脳内会議をしていたはずが、結果的に現在の薬師湯の布陣がベストだということを思い知らされた。

 

薬師湯は「街のお風呂屋さん」だ。

最近の温浴施設は色々設備が充実しているところも多い。

私だってそういう施設に行くし、もちろん大好きなのだけれど…。

「生ラッシー」「生パクチー」等、見たこともないラインナップの薬湯カレンダー、閉店20分前でも追加される入浴剤。

男湯女湯関係なく100度を超しているサウナ、そして、特別冷たいわけでもないし、何か特別な機能があるわけではないのだが、格別に気持ちいい天然地下水の水風呂。

この薬師湯の「薬湯」「サウナ」「水風呂」という研ぎ澄まされた3ピースは、強烈な掛け算を持って私を惹きつける。

別の箱でカテゴライズなど、とんでもない。同じ箱の中でバチバチにやりあったって、負けやしないのだ。

思うのだが、こういった「引き算のマジック」が掛かっている施設は、実際に行って体感しなければわからない。

私も、当初は「寿湯、萩の湯と来たら、次は薬師湯っしょ。」というテンションで訪問した。最初の2件は規模もある人気な銭湯で、正直薬師湯に同様の期待をしていたかと聞かれれば、そうじゃない。

だが、訪れた瞬間「なんだここは…」と感じたのだ。
引き算のマジックが掛かっている施設には、たどり着いた時にわかる匂いみたいなものがある。

 

甚風呂

(江戸時代から昭和にかけて営業されていた「甚風呂」にて)

 

 

ぜひタイミングを見て訪問してほしいのだが、せっかくなので宣伝を。

8/22から、薬師湯で「千夜十夜の湯」というイベントを行う。

薬師湯で連載している私の「千夜十夜着想記」というコラムにちなんだイベントだ。

色んな世界をイメージした湯を魔法の絨毯に乗った気分で回ってみようというコンセプトで、1週間で薬師湯の浴槽が虹の7色に変化する。

ちなみに、初日は生のシャンパン風呂に、水風呂はワインの薬湯。奇跡の交互浴が体感できる。

期間中は、コラムをまとめた小冊子(ZINE)の無料配布やプレゼント企画も合わせて行われるので、よかったらチェックしてみてほしい

ちなみに月替りのステッカーはいつでも無料配布されている。

詳細は薬師湯Twitterにて(URL:https://twitter.com/yakushiyu1010?s=21)

 

薬師湯ラバーが1人でも増えることを祈ってこのイベントを行うので、もしご都合が合えばご訪問していただきたい。

そして、墨田区が誇る最高の「3ピース銭湯」を、あなたに是非体感し

てほしい。

 

 

[YouSayプロフィール]

YouSay
93年生まれ、大阪出身。デザイン会社での経験を経て、転職のため上京。
銭湯で水風呂に入ったことがキッカケでサウナにハマる。
アートディレクター・グラフィックデザイナーとして活動する傍ら、2019年より薬師湯にてデザイナー目線の月刊コラム「千夜十夜着想記」を連載中。
写真はヨーロッパが誇る温泉の街、ブダペスト(ハンガリー)にて。
Twitter@Ux09