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【大西一郎 ある視点/第1回】私が見たサウナの裏側 女の世界

「わし男に揉まれたことないねん。だからどんなオバハンでもええから女やなかったら嫌やねん。」

メンズサウナ一筋のお客様はそのように言っていた。

15年程前だろうか。

私が温浴業界でリラクゼーションの仕事をはじめた頃の話だ。

銭湯、スーパー銭湯、健康ランド。

温浴施設も色々だが、メンズサウナは特殊だ。

 

セラピストの出自も色々だが、当時スーパー銭湯が流行り出し、メンズサウナからスーパー銭湯に流れてきたリラクゼーション嬢達、「サウナあがりのおばちゃん」達は、色んな意味で別格だった。

 

私は、この仕事をはじめた頃、サウナあがりのおばちゃんの昔話をよく聞いた。

私はおばちゃんに好かれる傾向があり、行く先々で大変可愛がられた。

彼女達の話を聞きながら、私は今思い返せば、

「うんうん。」

か、

「そうですね。」

しか言葉を発していなかった。

 

彼女達はバブルを知っている。

 

客は全員屈強な男。

24時間戦えますか、ビジネスマーン!

といった趣の、バリバリの企業戦士。

 

迎え撃つ100人前後のセラピストは全員女。

嬢達は持てる武器を全て使って太客を奪い合う。

実力、容姿、話術、色気、駆け引き、足の引っ張り合いも全力。

 

さながら水商売の世界。

 

なぜか、漢字一文字の源氏名を使う。

理由はわからない。

東、南、西、北、中、みたいなのから

岸、浜、菅、池、島、原、桂、泉、藤、弓、星、琴、葵、瞳、など

単に本名から一文字取ったと思われるものから、ちょっとキラキラした文字まで様々だ。

ちゃん付けで呼ばれることも多い。

どんな妖怪のようなババアでも岸ちゃんは岸ちゃんだ。

セラピスト、すなわちプレイヤーである従業員は、

どんなババアでも「女の子」。

セラピストなんていう平成な呼び方はしない。

「今日女の子何人おる。」というように。

 

お客さんに対しては基本的にタメ口。

低いしわがれ声で、

「今日どこ揉むん。」

と訊く。

 

高い澄んだ声で、

「お客様、お足元、失礼いたしますぅ。」

などと声色を使えば、他の女の子から、「キャバレー」と名付けられる。

 

とにかく100人とも150人ともいう女ばかりの集団が客を取り合うのだからさあ大変だ。

ある日、暴走族出身のおばちゃんが話してくれた。

「とにかく女ばっかり100人おるやろ、このままやったらいじめられる、それはあかんと思って、あたしいじめることにしたねん。」

なるほどさすがだ。

 

そう、退いてはいけないのだ。

「あの娘、色で客取ってんねん。」

と、不名誉な噂を立てられて、

「ひどい、私色なんて使ってないのに。」

と泣いている場合ではない。

 

「ほんまに色使うたんねん!」

と客を取り返さなければならない。

 

そして、高度経済成長期からバブルまで、24時間戦う、岩のような体のビジネスマーンに挑むか弱い女の子たちの力はすごい。

その圧は時に、「真珠湾攻撃」と形容される。

指の力だけでもすごいのだが、肘も使えば膝も使う。

天井にはつかまる用にバーがついていて、足で踏む。

というか中には、何にもつかまらずにホイホイ背中を踏んで歩きまわる仙人のようなババアもいた。

さらには、バイブレーターと呼ばれる、工事現場のランマーのような機械を自在に操り、お客さんの背中をブインブインバイブレーションさせるのを見たときは、工事だ……と思った。

 

と、女の子たちにとっては戦争、抗争、そして工事だが、24時間戦うビジネスマーンたちにとっては憩いの時間だったに違いない。

有名な関西のローカルCMソングにもあるように、まさに「ええとこだっせ」だっただろう。

まず、サウナにたどりつくころにはへべれけなのだ。

 

クラブで脚を出したきれいなホステスさんたちにちやほやされて、飲んで、酒を抜きにサウナへ向かう。

 

サウナのフロントではまずリラクゼーションを受けるか否かを訊かれる。

現代では1時間コースがスタンダードな気がするが、おばちゃん達の全盛期は2時間が普通だったという。

「ダーツーシー」という、麻雀用語のような言葉をよく覚えている。

まるで「せっせっせーのよいよいよい」のように、楽しそうに、懐かしそうに、ダーツーシーダーツーシーと連呼していた。

ダー(ダイヤモンドコース)ツー(2時間)シー(指名)という意味らしい。

風呂場では嬢が体を洗ってくれる。

風呂を出て、裸に、デカパン先生のようなパンツ姿か、その上にガウンを羽織ってラウンジのような待合室で自分の番号か名前が呼ばれるのを待つ。

 

ちなみに私は大変な寒がりなのに、ある日客としてとあるサウナを訪れたとき、この待ち時間にパイナップルを注文してもりもり食べてしまい、凍え死にそうになり、見かねたラウンジの店員さんたちが、バスローブやら足袋みたいな靴下やらをありったけ持ってきて遭難者のように温め、励ましてくれたことがある。

さすがニュージャパン。その節はありがとうございました。

 

そして、ものすごい数のベッドが並んだ部屋に通されると、先ほどクラブにいたお姉さんたちと比べると、若干容姿や年齢のバリエーションが豊かな嬢たちが、白衣というかピンク衣というか、どこか医療的な雰囲気を出しつつ、やはり同じく脚を露出した姿で待っている。

 

ガウンを脱いで裸になり、仰向けに寝ると、冷たいタオルや温かいタオルを載せられる、乳液を塗られる、勝手に目薬をさされる、飴ちゃんを口に放り込まれるなどのおもてなしを受け、真珠湾攻撃が始まる。

真珠湾攻撃ダイヤモンドダブル2時間コースを受けながら寝る、時には一本につき100円で嬢に白髪を抜かせる。

そしてそのまま、黄色と黒の勇気の印を飲んで、また24時間戦いに行くのだ。

注:イメージです。

 

私が聞いた話の中で最長は8時間コースで、

「途中飯食うてもタバコ吸うても何してもええから8時間してくれー。」

と言って毎日来る人がいたらしい。

まあとても健康に良いとは思えないが、景気の良い話だ。

 

とまあ、おばちゃん達がハイライトをふかしながらそんな話を聞かせてくれたのも、すでにバブルが弾けて10年以上経った頃。

「ええ時代やったなあ。」と。

 

そんな不景気の中、私自身、二週間だけ、大阪のサウナで実際に働いたことがある。

「男でも何でもええから連れてこい!」

と、当時所属していた会社の営業の人たちは、ずいぶんいじめられていたようだった。

 

と言って決して忙しいわけではなく、とにかく頭数揃えろボケーということだ。

 

その担当者がムキになるのもわかる程、店はなかなか廃れていた。

おばちゃんたちは揃いも揃って妖怪のようだったが、私には優しかった。

薄暗くてだだっ広い控室(タバコ吸い放題)で、よそ者の私にわからない様にひそひそと一日中誰かしらの悪口を言っていた。

ただ、3日もすると誰の何のことを言っているのかすべてわかるようになった。

2週間経つともうすっかり溶け込んで、妖怪たちが、「もうここの子になったらぁ~?」と妖術を使ってきたが、会社の命令で元の店に戻り、代わりに同じくペーペーだったのぞみちゃんが連れていかれ、同じく二週間後に帰ってきた。

のぞみちゃんも溶け込むのが上手だったので、私と同じ体験をして、帰ってきてしばらくは個性豊かなおもしろ妖怪たちの話題で盛り上がった。

 

これが私が見た、聞いた、サウナの裏側に存在する、女の世界。

サウナも銭湯もお客さんも時代と共に変わってゆくかもしれない。

私が知らないだけで、変わってないところもあるのかもしれない。

 

[大西 一郎 プロフィール]

大西一郎
1980年12月23日
兵庫県生まれ。
おふろの国リラクゼーションコーナー
ケアケア店長、サウナ歌謡歌手。