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【第1回】嫌われたならしょうがない

どんなサウナがお好きですか? みなさまが理想とするのは、どのようなサウナでしょうか?

 

・身体の芯までしっかり熱が入り、大量発汗できるサウナ。

・換気が良く、空気が澱んでいないサウナ。

・良い香りがして、清潔感のあるサウナ。

・あまり混んでいないサウナ。

・頻繁なマット交換や一人用マットなどで、他人の汗が気にならないサウナ。

・頻繁なロウリュサービスか、セルフロウリュができるサウナ。

・気の利いた照明や内装で落ち着くサウナ。

・時を忘れて惹き込まれるエンターテイメントがあるサウナ。

・いろいろな体感を楽しめるバリエーションがあるサウナ。・あまみが色濃く出ていつまでも消えないサウナ。

・サウナから出たらすぐに冷却できるよう近い位置にある水風呂。

・汗流しはお湯でできるよう、シャワーがすぐ近くにある水風呂。

・順番待ちする必要がない水風呂。

・水がきれいに澄んで、塩素臭のない水風呂。

・深くて冷たくて、きっちり冷却できる水風呂。

・潜ろうが何をしようがじゃんじゃん補給水が入って汚れない水風呂。

・鉱泉など良い成分が感じられる水風呂。

・体調や目的によって使い分けられるバリエーションがある水風呂。

・座り心地の良いチェアが置かれた外気浴。

・リクライニングするチェアが置かれた外気浴。

・人が使った後のチェアは近くの湯を汲んでさっと流せる外気浴。

・心地よい風が吹き抜ける外気浴。

・煩わしい音がせず静かに瞑想にふけることができる外気浴。

・水音や鳥のさえずりが聞こえる外気浴。

・足元だけ冷えることがないよう、床材などに気遣いのある外気浴。

・空や緑、夜景など眺望を楽しめる外気浴。

 

 

こうして書き出しているだけでも想像が膨らんで楽しくなってきますが、サウナに何を求めるのかというのは人それぞれであり、何が正しいということはありません。

 

分かっているのは、上記のような条件が揃えば揃うほど、きっと多くのお客さまが喜んでくれるだろうということ。

 

サウナを提供する側は日々その声を感じながら、お客さまの満足度を少しでも高める環境を提供しようと努力しているのです。

 

ただし、人によって求めていることの優先順位が異なりますし、すべての人の欲求を満たすことはできません。

さらに元々の立地条件やコスト面、技術面での限界もあります。全部揃えようとすれば、おそらく経営的には成り立たない話でしょう。

 

決してお客さまの気持ちを分かっていないわけではないのです。

 

様々な欲求に応えることの実現可能性とコストやリスク、そして顧客満足の結果としての売上増というリターンを天秤にかけ、バランスをとりながら最大公約数的な答えを探り、進化してきた結果が今の日本のサウナの姿です。

それはこれからも同様で、現時点の最適解がずっと続くわけではありません。

 

だから、サウナファンのみなさまは声を大にして自分の好みを言ってください。施設はその声に真剣に耳を傾けていますし、それが業界の進化のきっかけになります。

 

ただし、自分のサウナ愛を主張するために、他者を否定する必要はないと思います。気に入らない施設には行かなければいいだけのことでしょう。

 

好きな女性がいたとして、その人のことがいかに好きかを言うのは微笑ましいのですが、関係ない人をつかまえて、あいつはブスだとかスタイルが気に入らないとか言っても意味がないのと同じことです。

 

施設をバッシングしたり、考え方の異なる人を否定するのは、おそらくサウナ愛とは別の話でしょう。

単なる自己顕示欲なのか、あるいは金儲け的な狙いがあるのか…そういう主張は雰囲気ですぐに分かりますので、施設側がそういった声を真に受けることはありません。

 

あのサウナは素晴らしかった、こんなサウナが理想、近くにこんなサウナが欲しい…そんな愛あるメッセージが業界の進化を加速させるのです。

 

温泉ファンとサウナファン

かつて、私は温泉通(マニア)を自称する人たちを苦手に思っていたことがあります。

 

「単純塩素泉」あるいは「センター系」という言葉をご存じでしょうか?

「単純塩素泉」というのは、単純泉(単純温泉)という温泉法上の分類用語をもじって使われているもので、「泉質に特徴がなく、塩素臭しか感じられないお湯」のことです。

 

「センター系」というのは、温泉に塩素を投入して濾過循環している温浴施設全般を指す言葉で、歴史的にいわゆるヘルスセンター、健康センターと呼ばれた大型温浴施設の登場(1950年代)から濾過循環設備を持って毎日換水を行わないタイプの温浴施設が普及したことに由来します。

 

塩素投入と濾過循環によって天然温泉が持つ本来の良さが失われていることを暗に批判しており、そういった「湯づかいが分かってない」タイプの温浴施設に対する蔑称とも言えるでしょう。

 

いずれも秘湯や源泉かけ流しが好きな温泉愛好家の方々が使う言葉なのですが、そうしたマニア用語を使った上から目線の主張を見ると、「施設側の事情も知らずに勝手なことを」と憤慨していたものです。

 

温泉成分表示を見て、専門的に論評する人もいます。

泉質、湯量、湯温…どんな温泉が湧くのか、それは天から与えられるものであり、自分ではどうすることもできません。

 

そもそも掘削して湧出するかどうかも分からないのに、億単位のリスクを冒してようやく掘り当てた源泉を貶されるのは、施設側からすれば我が子を貶されるのも同然です。

 

「成分のつまらない温泉」とか「薄い温泉」といった論評を見ると、「そんなに濃いのが好きなら塩や重曹をどっさり入れたら?」「なんなら泥水に入れば成分豊富ですが。」なんて言いながら憤っていました。

 

天然温泉は文字通り天与のものですから、湧いているだけでありがたい存在であり、法的あるいは技術的な知識や、経営的な事情を理解していない人たちに勝手なことを言われたところで対応しようもないのです。

 

「9頭身以下は人間じゃない」、と言われているようなものです。

そんな論評を愛とは言いません。だから、温泉マニアの主張を聞くのが辛かったのです。

 

最近は、サウナの世界でもマニアックな意見が増えてきたようです。

またマニアの勝手な論評でいやな気分にさせられるのだろうか、と少し身構えていたのですが、どうも温泉マニアの論評とは様子が違うようです。

 

考えてみれば、サウナ環境は天与のものとは限りません。

水風呂の水質や給排水環境、露天からの眺望などはあらかじめ与えられた条件によって決まってしまうので変更は難しいのですが、サウナを構成する要素の多くは人が作っているものであり、技術や創意工夫によって改善できる余地が多々あります。

 

そう考えるとサウナファンは幸せ者です。

 

理想の温泉は手の届かないスクリーンの向こうにいる憧れだけの存在。

どうしても会いたいと思ったら、かなりの時間とお金をかけて遠くまで行かなければならない。

 

でもサウナは身近にいるし、会話もできて自分の希望が伝えられ、いつの間にか理想と近づいていたりすることもあるのです。

 

 

望月 義尚(モチヅキ ヨシヒサ)

 

温浴施設の経営コンサルタントというレアな職業を確立したパイオニア。日本中にロウリュを広めた仕掛け人でもある。温浴業界の発展が人類に健康と幸福をもたらすと信じて2006年に株式会社アクトパスを設立、代表取締役に就任。

Twitterアカウント: @spamochi

公式サイト: https://aqutpas.co.jp/

 

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