【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第4回】熱くて冷たいおんなたち
◆女性の耐熱性
それを最初に感じたのは、2019年1月に下北沢で開催されたアウトドアサウナイベント「CORONA WINTER SAUNA SHIMOKITAZAWA」に行った時。
気になったのは、女性が水風呂に入っている時間のことです。
暫定的なイベントの設備ですから、水風呂は簡単に設置できるガーデンプールを利用し、おそらく簡易ろ過と水道水かけ流しの併用。
冬場の水道水ですから、水温は東京でも10度以下になります。
一方サウナ室は採暖室の扱いなので温度設定はそんなに高くはなく、テントですから断熱性も低い。
いくらロウリュをしてもそこまで熱くはなりません。
加熱不足なので、水風呂に慣れた私でも冷たい水に1分以上入っているのはちょっと無理だったのですが、ビキニの女性たちはなぜかいつまでも楽しげに入っているのです。
その時は「この女性たちは相当なサウナヘビーユーザーなのだろうか?」とも思ったのですが、どこか腑に落ちない出来事でした。
その後ネット記事を見ていたら、ようやくその出来事の意味をスッキリ理解することができました。
https://saunology.hatenablog.com/entry/sauna-sweat02
Saunologyというサウナを科学的に研究するブログですが、そこには女性の方が汗をかきにくいが熱に強いということが書かれています。
その理由は、女性は周りの温度が高いと身体の熱生産量が男性よりも低くなり、少量の汗で体温調節できるということと、皮下脂肪が厚いので断熱性が高いという2点のようです。
要するに女性の方が温度変化に強い。
これを読むと、やはり昨今の温浴施設の女性サウナ環境の作り方は間違っているようだと感じます。
まずサウナ利用率。
普段あまり汗をかかないからこそ、温浴で思い切り発汗したいというニーズは本来男性よりも強いのではないでしょうか。
美肌や冷え性改善などの利用動機も男性より明確ですので、本当は浴室収容人数に対するサウナ収容人数のバランスは、男性よりも女性サウナを多くするべきだということになります。
さらに水風呂も入っている時間が長ければ混雑しやすくなってしまいますから、もっと大人数が同時に入れるようにしなければならない。
岩盤浴利用率の男女比は、大抵の場合女性が7割か8割を占めています。
現状の女性サウナで満たされていない欲求が岩盤浴利用率に表れていると見るべきかも知れません。
世の中的には何かにつけ、男性は強さ、女性には優しさといったイメージをあてはめがちです。
結果的に男性の方が熱いサウナや冷たい水風呂を好むだろうと考えられ、男性は強烈な設定にして、女性はマイルド設定にすることが一般的です。
男性はサウナ室温度を高めにしたり、サウナ室が2つなら高温ドライと中温加湿にするのに、女性は基本的に温度抑えめの設定、サウナ室が2つなら中温とスチームかミストといったマイルドな組み合わせになっているケースが多いと思います。
女性は身体の熱生産量が低く、汗をかきにくい。
さらに皮下脂肪による断熱性能まであって、温度変化に強い。
この点を冷静に考えると、男女同等どころか女性の方をもっと強烈な設定にしなければ満足されられないということになります。
汗をかきにくいのですから、男性よりも温度と湿度を高めに設定した方が大量発汗を実感させられます。
また熱生産量が低いことからも、芯まで温めるためには男性よりも充分な加温が必要です。
さらに皮下脂肪による断熱を乗り越えて加温と冷却をするためには、サウナと水風呂の温度差も男性より大きくする必要があります。
温度変化による強い緊張と弛緩のプロセスによって自律神経がリセットされる、いわゆる「ととのった」状態になるわけですから、元々温度変化に強い女性に対してマイルド設定にしていたら、全然ととのわないということになります。
だから女性のサウナファンが男性よりも少なかったのではないでしょうか。
温浴業界は、これまで偏見によってまったく逆のことをやってしまっていたのです。
2020年9月に参加したサウナ&カプセルホテル北欧貸切イベントの時もそうでした。
高温サウナのロウリュですから、なかなか強烈な体感温度ですし、水風呂の温度も低かったのですが、混浴した女性たちは加温も冷却も私より長時間平気な顔で楽しんでいました。
やっぱり、そういうことか、と確信を強めました。
とはいえ、長年世の中に染み付いた男女イメージをひっくり返すのは簡単なことではありません。
多くの女性たちも、自らの身体的特性を顧みずに「こんなに熱いサウナ(冷たい水風呂)は、か弱い私には無理~。」とか思い込んでいることでしょう。
いきなり直球で結論を突き付けても理解されにくいとしたら、ハードからソフトまで、手を替え品を替え伝え続けていく必要があります。
そうやって今までの常識を覆すことができた時には、入館者の男女比率は女性客の方が多くなっているのかも知れません。
◆本当に消費しているのは女性
券売機では男女を区別しないことがほとんどなので、男女別の消費傾向を数値で把握することは困難です。
POSシステムであれば、男女別データは集計できますが、実際のところ家族で食事して注文はすべてお父さんのキーバンドにつけるとか、カップルで来て館内消費は彼のおごりといったこともありますので、データが真実を示しているとは限りません。
上記のように支払いは男性だけど本当に消費しているのは女性、というようなケースも考えると、女性客の売上貢献度は男性よりもはるかに大きい可能性があります。
真実は闇の中なのか…と思っていたのですが、以前温浴施設のボディケアサービス受託の最大手(全国で200件以上の実績)であるリバース東京の開発営業を担当している人と話す機会があったので聞いてみました。
「仮に男女客数半々の温浴施設でボディケアをやった場合、施術を受ける男女割合はどうなることが多いですか?」と。
答えは「男女比は4:6で女性が多くなります。
ただし、サウナ施設の場合は男性が利用する割合が高くなります。
あと韓国式アカスリは男性客の利用の方が若干多くなります。」とのことでした。
全国でたくさんの温浴施設を見てきた私の感覚でも、同様の傾向を感じていました。やはりボディケア、リフレクソロジー、エステなどの利用率は女性の方が高いのです。
さらに言えば、岩盤浴や物販の利用率は圧倒的に女性客が上です。
おそらく3:7から2:8の比率。
飲食は店舗コンセプトやメニュー展開にもよりますが、やはり女性客が多いと思います。
特にランチタイムにブッフェをやったりするとほとんどの席が女性客で埋まります。
風呂上がりのアルコール需要だけは男性優位ですが、そこがずっと伸び悩んでいるのは皆さんご存じの通り。
このように考えていくと、漠然と客数アップを願っているよりも、ハッキリと女性客にターゲットを定めて施策を打った方が売上アップの成果を上げやすいのは間違いないでしょう。
温浴業界全体が旧来の常識から抜け出せなかったことや、女性経営者が少ないことによって、時代の変化への適応が遅れてしまったことが、昨今の温浴マーケット低迷を招いた一因と思います。
温浴業界がそこにもっと目を向ければ、温浴マーケットはふたたび成長をはじめるはずです。
◆ついに業界も動き始めた
最近は首都圏の女性サウナマーケットが賑やかです。
サウナ&カプセルホテル北欧ハロウィン女子会(10月31日)、かるまるレディースデイ(10月31日)、サウナ錦糸町全館女性専用のレディースデイ(11月8日)と、女性向けイベントが続きますがいずれも大盛況。
普段は男性専用のサウナ施設が限定的に開催しているイベントであることによって、一層注目が集まり、即日完売や満員御礼が続いています。
総人口の過半(約52%)を占め、美と健康に関する意識が高いのが女性マーケットであるにも関わらず、なぜかこれまで温浴業界では男性専用施設は多々あっても女性専用施設はほとんどなく、男女共用施設でも男性浴室が大きかったり、男性側設備の方が本格的であったり…と、男性優遇の考え方が幅をきかせていました。
かつて、男は外へ出かけ、女は家にいるもの…といった時代があり、男性の温浴マーケットを狙った方がビジネスとしては確実性が高かったのだと思われますが、それは昭和までのこと。
もうそんな時代はとっくの昔に過ぎ去っているのですが、温浴業界における男性優遇の考え方は過去形ではなく、いまだに現在進行形なのです。
新規オープンしたばかりの施設が、男性側には高温サウナがあるのに女性側はミストサウナだけだったりすると、SNS上の女性サウナファンの間では激しいブーイングが起きているのですが、中高年男性たちはなかなか気づかないようです。
いま首都圏ではコロナ禍をきっかけに女性限定イベントがブームの様相を呈していますが、いくら男性専用サウナがイベントで女性サウナ需要を喚起し満員御礼になっても、これらの施設が継続的な女性マーケットの受け皿になることはできません。
しかし、業界全体が女性マーケットの有望性に気づけば、温浴マーケットはもっと大きく拡がるのです。
コロナ禍で売上前年割れが続く中、奇しくも男性専用施設が示してくれた女性客マーケットの可能性を、みすみす見逃す手はありません。
[望月 義尚(モチヅキ ヨシヒサ)プロフィール]
温浴施設の経営
コンサルタントというレアな職業を確立したパイオニア。日本中にロウリュを広めた仕掛け人でもある。温浴業界の発展が人類に健康と幸福をもたらすと信じて2006年に株式会社アクトパスを設立、代表取締役に就任。
Twitterアカウント: @spamochi
公式サイト: https://aqutpas.co.jp/
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