【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第5回】サウナファンがもっと増えれば世の中が変わる
◆温浴施設の皆様へ
4年ほど前に、東京ビッグサイトで開催されたHCJ2017(国際ホテルレストランショー)のテルマエJAPANセミナーで、「激論!どうなる日本のサウナの未来」というテーマのパネルディスカッションを企画したことがあります。
司会に林 和俊氏(横浜鶴見おふろの国店長)、パネリストは長家広明氏(弁護士・プロサウナー)、木地本朋奈氏(トリリオン・温浴設備関係会社社長)、清水みさと氏(サウナヘビーユーザー・タレント)、中村敏之氏(アクアプランニング・温浴施設企画設計会社社長)という錚々たる顔ぶれで、企画側でありながら面白く拝聴させてもらった記憶があります。
この4人のパネリストと事前にディスカッションのテーマについてすり合わせしていたところ、ひとつ気づいたことがありました。
それは、「コーチの存在」。
パネリストの皆さんは全員が誰かからサウナの入り方をコーチしてもらい、サウナの世界にのめり込んでいったということが分かったのです。
関わり方はいろいろですが、今でいう「蒸しZ」のような存在でしょうか。
この文章を読んでいる読者の皆様もそうではありませんか?
私自身もニュージャパンサウナの中野佳則副社長(当時)に、横について説明してもらいながらサウナとロウリュを体験し、以来サウナの魅力にとりつかれたひとりです。
汗をかくだけでなく身体の芯までしっかり加温することや、水風呂での冷却、そして休憩タイムといったサウナー独特の入浴法は、知らなければ試そうともしないでしょうし、たとえ情報としては知っていても、加温や冷却のストレスが大きいため、自分ひとりだけでは中途半端になりがちです。
やはり誰かが手を引いてあげないと、新しい世界に足を踏み入れることは難しいのでしょう。
ということは、サウナファンを増やすためには、館内にサウナの入浴法POPを貼ったくらいでは足りず、施設側としてはコーチやインストラクターを配置するべきなのです。
いま私が考えている「サウナの入り方教室」のイメージですが、
・サウナマスター講座の開催を事前告知(館内とネットで)。
・開催の10分くらい前に館内放送。
・浴室の指定場所に集合。
・集まったところで簡単なレクチャー。
・一緒にサウナ入浴(10分前後)、ついでにサウナマナーも教える。
・一緒に水風呂入浴(1分前後)。
・一緒に休憩しながら要点を復習し、あと2〜3回の繰り返し入浴を推奨して講座終了。
・しばらくして様子を見に行き、声をかけて新しい世界に足を踏み入れたことを確認。
・修了証を渡したり、ドリンクやサウナハット、サウナマットをセットにして有料コースにすることもできるでしょう。
サウナや水風呂のキャパシティがありますので、一度に多くの人に教えることは難しいかも知れませんが、少人数でも繰り返し継続すれば、やがて多くのサウナファンを育成することができます。
またロウリュイベントの開催に比べれば、スタッフの負担はそこまで重いものではありません。
特別感のあるイベントで広域のサウナーを集客するのも良いのですが、自店に通ってくれる地元リピーターを増やしてこそ、継続的な客数アップにもつながりますので、温浴施設の皆様にはぜひ取り組んでいただきたいと思っています。
◆サウナファンの皆様へ
私の仕事は主にBtoBなので、普段温浴ユーザーの皆様に向けて情報発信することはあまりなかったのですが、この日刊サウナを通じてサウナに関心のある多くの方々の目に触れる機会を与えていただき、感謝しております。
この場を借りて、すでにサウナの魅力を理解しているユーザーの皆様にお願いしたいことがあります。
それは、「周りの人をサウナに誘って、一緒に行ってください!」ということです。
私もよく人にサウナを勧めるのですが、そのきっかけはたいてい身体の不調という話題が出た時です。
「風邪」「頭痛」「花粉症」「眠れない」「冷え性」「肌荒れ」「おなかの調子が悪い」「疲れが抜けない」…病院に行くしかないような急性症状や重症以外のあらゆる日常的な体調不良は、自分で養生して健康を取り戻さなければならないのですが、その方法としてサウナが極めて有効であることはあまり知られていません。
日常会話で体調の話題が出ることは多いので、必ず「そういう時はサウナが良いよ」と言うのですが、大抵の場合は「?」とか「…。」という反応になります。
これまで、「温浴施設の利用習慣がある人は国民の2割、うちサウナファンはその2割、したがってサウナファンは国民の4%くらい」ということと、「最近そのサウナファンが急激に増えている。倍増の勢いなら4%→8%になっている」ということが言われてきました。
各種アンケート調査やTwittetのサウナ関連ツイート数などから見て、ブームで倍増といっても8%ですから、日本人をランダムに10人集めれば、その中にサウナファンが1人いるかいないか、というレベルです。
いま身の周りには温浴ファンやサウナファンが多いので、10人に1人以下というのは自分の実感とズレがあるのですが、世間一般的にはそうなのかも知れません。
先日ある温浴施設で、参加者10人くらいの会議をした際に、「この中でサウナ好きでよく利用している人は?」と尋ねてみたところ、挙手はゼロでした。
採用段階で意図的にサウナ好きを集めているということでなければ、世間には10人に1人いるかいないかですから、充分ありうることです。
どうして10人中9人以上はサウナファン、サウナリピーターになっていないのか。
そもそも温浴施設に行こうとしない人というのは、お風呂に身体を清潔にすること以上の意味を求めていなかったり、人と一緒にお風呂に入ることに抵抗があったり、体質的に熱いところが苦手であったり…といった理由があるわけですから、そこをいきなりサウナファンに持っていこうとするのは難易度が高そうです。
しかし、温泉やお風呂は好きなんだけどサウナはちょっと…と言っている人たちのうち、おそらく半数以上は単なる食わず嫌いです。
食べ物の見た目や匂いだけで判断して、食べたくないと言っている子供と一緒ですから、美味しさが分かりさえすれば食べれるようになるものです。
サウナに入らなかった理由や事情は人によって様々ですので、それを覆すには一筋縄ではいきません。
多様なアプローチが必要になると思います。
まずひとつめは「イメージ作戦」です。
サウナって、酔っぱらったオヤジや疲れたサラリーマンが行くところ。
この顔にピンときたら110番のポスターとか貼ってあるガラの悪いところ。
いまや明るくて健全なサウナばかりですから、古くて間違った先入観でしかないのですが、そう思っている人が少なくないのも事実です。
そんなマイナスイメージを持ってしまっている人に、いくらサウナで体調不良が改善すると言ったところで、じゃあ行ってみよう♪とは、なかなかなってくれません。
ここが温泉とサウナの最大の違いかも知れません。
そういう人たちには、サウナの健康改善効果を理屈っぽく説明するよりも、まずサウナが素敵で楽しく面白いものというイメージを伝える必要があります。
私のお気に入りの画像があります。
アメリカのサウナ情報サイトにあるのですが、裸で雪に飛び込むという不思議な光景が面白くて、既成概念を覆してくれる1枚です。
画像出典:SAUNATIMES|https://www.saunatimes.com/sauna-culture/sauna-weather/sauna-is-a-celebration-of-temperature-extremes/
体調不良というのは、誰もが何かしら抱えている日常的な問題です。
それに対する健康法ということでは世の中にありとあらゆる情報があふれていますので、いくらサウナが良いよと伝えてもすぐに信じてはもらえません。
それよりも素敵で楽しく面白いというイメージを伝えた方が関心を持ってもらえる可能性があるのです。
その先鞭をつけてくれたのが2014年に小学館から発刊されたムック「Saunner」でした。
整地フィンランドの情報や、有名芸能人のインタビュー、医学的アプローチなど多面的にサウナの魅力を伝えたことによって、今のサウナブームのスイッチが入ったと思います。
今はマスコミからネット情報まで、楽しそうなサウナの情報がたくさんありますので、そういった情報を見せることで、古いイメージを払拭してもらうのはそんなに難しいことではなくなってきたと思います。
しかし、イメージ作戦でサウナに対する古いマイナスの印象をある程度払拭できたとしても、すぐにサウナにハマってくれるのかというと、そう簡単には行かないでしょう。
「前に一度入ったことがあるけど熱くて苦しいだけだった」「水風呂に入ろうと思ったけど、足を入れたら冷たくて心臓が止まるかと思った」といった記憶があったり、あるいは一度も入ったことがなければ、いくら勧めたところでやはり気後れするものです。
この気後れを乗り越える一番良い方法は、一緒にサウナに入ること。
食わず嫌いを治すふたつめの方法が「コーチング」です。
自分ひとりで行くのは躊躇われても、人に誘われれば仕方なく行ってみるかという気にもなりやすいものです。
そこでサウナ入浴法のコツを教われば、高い確率でサウナの魅力に目覚めることでしょう。
サウナの良さを存分に体験してもらわなければなりませんので、一緒に行く施設はできるだけサウナ・水風呂・外気浴のサウナ環境がしっかり整備されていて、清潔感があり、あまり混雑していないタイミングが良いでしょう。
一気にアウトドアサウナイベント体験という手もあります。
実際に入る時は、あまり細かい指示をしたり、理屈を言うのではなく、とにかく一緒にサウナに入る。
スポーツでも何でもそうですが、座学や基礎練習ばかりだと面白くなくて続きません。
試合やゲームを体験してこそ、その醍醐味が分かるというもの。
サウナもそれと同じです。
まずは体験してみる。
そのためにはサウナ室に入ることから始まります。
熱くて苦しいのは嫌と思っている人は、温度の低そうな下段に座るかも知れませんが、それでも構いません。
まずは好きなようにサウナを体験してもらいましょう。
そして数分も経つと、体表の温度が上がり、心拍が昂進、発汗も始まります。
おそらく初心者は「もうしんどくなってきた、そろそろ出たい」と言い出すでしょう。
ここからが本番です。
短時間では身体の芯まで加温できていませんので、その状態ではまだ水風呂に入れません。
加温不十分で無理に水風呂に入っても、気持ちよさよりも冷たさの苦痛の方が上回ってしまうのです。
水風呂の冷たさを気持ち良いと感じるためには、熱くて苦しいと感じ始めてからもう少し我慢する必要があります。
そのために、話しかけたり、タオルで頭部を覆って加熱を防ぐことなどを教えると良いでしょう。
移動してベンチ最上段が一番熱いということを体験してもらうのも効果的です。
そうやって、しんどいと訴え始めてからさらに2分くらいは長く加温してもらいます。
加温時間の目安は8分以上とも言われますが、サウナ室の環境にもよるので一概には言えません。
しんどくなってきてからプラス2分が目標です。
これはスキーに例えれば、怖がって下の方の緩斜面で練習している初心者をリフトで頂上に連れて行くということ。
頂上の景色やゲレンデの変化を体験してはじめてスキーで滑る楽しさを知るのと同じことです。
サウナによる爽快感や体調変化は、加温だけでなく水風呂もしくは低温外気浴による冷却の後でしか得ることができません。
冷却を体験してもらうためには、その前準備として十分な加温が必要なのです。
もうダメというところまで加温できたら、いよいよ水風呂です。
最初の水風呂は10秒でもいいので、とにかく全身を一気に冷やすということを体験してもらいます。
初心者には強いストレスですが、そのストレスがあるからこそ、反動として訪れる究極のリラックスタイムを実感することができるということを教えてあげてください。
そして冷却の後は休憩。
外気浴しながらリラックスできるチェアがあればベストですが、なければベンチでも浴槽の縁でもいいので、とにかく静かにして、自分の身体に起きている変化を感じてもらいます。
これで、頂上からスキーで滑り降りるということを1回体験したことになります。
しばらく休んだら、続けて2回目、3回目にチャレンジ。
だんだん身体が温度変化に慣れてくるので、初回よりも長時間の加温や冷却ができるようになることも実感できるでしょう。
サウナ→水風呂→外気浴。
初心者がこのサイクルから途中で離脱しないよう、横について一緒に入ってあげるのがサウナコーチングです。
私はこの方法でたくさんの人をサウナファンにしてきたのです。
◆サウナファンが増えれば幸福な社会が実現する
「あんまりサウナファンを増やすとお気に入りの施設が混雑してしまうのでは…?」と心配するかも知れませんが、それよりもお気に入りの施設がコロナ禍でつぶれてしまうことの方が問題です。
逆にサウナマーケットが有望であることを施設側が確信できれば、増改築や新規出店も増え、良いサウナ施設がもっと登場してくるはずです。
「健康第一」と言いますが、日本人の10人中9人以上はサウナという極めて有効な健康法をまだ知らないのです。
自分の健康のために何かしなければと運動を始めても3日坊主。
あとは安易に医者やサプリメントに頼ろうとするのがいまの日本人です。
もっとサウナ利用者が増え、この状況が変われば、年々増大する国民医療費は抑制され、自殺者も減るでしょう。
生涯現役で元気な人が増えれば年金問題も心配いりません。
だから、いまサウナの素晴らしさを知っている人には、重大な使命があるのです。
ぜひ周りの人をサウナに誘って、一緒に行ってください!
[望月 義尚(モチヅキ ヨシヒサ)プロフィール]
温浴施設の経営コンサルタントというレアな職業を確立したパイオニア。日本中にロウリュを広めた仕掛け人でもある。温浴業界の発展が人類に健康と幸福をもたらすと信じて2006年に株式会社アクトパスを設立、代表取締役に就任。
Twitterアカウント: @spamochi
公式サイト: https://aqutpas.co.jp/
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