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【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第6回】白い鍵のお客さま

今から20年以上前、1990年代後半の話ですが、ニュージャパンサウナなんば店のお手伝いをさせていただいていた時に、会議で「白い鍵のお客さま」という言葉が出てきました。

何のことかと聞いていると、当時ニュージャパンサウナでは首からぶら下げるタイプのキーホルダーを使っていたのですが、フロントの入館受付の際に新規客だと分かると、他のお客さま(普通は黄色)と区別した白いキーホルダーを渡していたのです。

ロッカーも新規客だけの専用エリアがありました。

それをすることによって、勝手知ったる常連客とニュージャパン独特のシステムをまだ知らないお客様をひと目で区別することができるようになり、新規客には入館から退館まで、各セクションで親切丁寧な対応をしているということでした。

当時から、不特定多数を相手にする温浴施設ではどうすれば個別対応性が高められるのか?と考えていたのですが、老舗のサウナがとっくにそのような取り組みをしていたことにアッと驚かされたものです。

 

いま多くの温浴施設では、ロッカーキーがリストバンド方式になっていることが多く、手首にあるキーホルダーの色を変えたり目印をつけても目立ちにくいこともあって、新規客にマーキングしている温浴施設は全国でもまだ数えるほどしかありません。

しかし、些細なことのようですが、これを実行すると絶大な効果があります。

 

まずフロント。リピーターと新規客を見分けて臨機応変に対応を変えることによって大きな売上貢献をもたらす可能性があります。

人が新しい施設を利用する時は少なからず様子見、恐る恐る入るという心理があります。どういう利用システムになっているのか、館内にはどのような楽しみがあるのか。よくわからないまま入館してしまうと、せっかくの施設の特徴や強みを体験することなく帰ってしまうかも知れません。

当然客単価は上がりませんし、満足度が低くなってリピートにつながりません。

そこでフロントが新規客を見分けて、丁寧な館内の利用案内をすることが重要な意味を持ってくるのです。

 

新規客に目印となるマーキングがあれば、各部門でも対応が変えられます。レストランのメニュー説明、ロウリュのタイミング、マッサージの予約…あらゆる場面で客単価アップや満足度アップのチャンスが生まれます。

 

そして退館精算時。新規客マークのついた鍵が返却された時は、新規客だけのための次回来店促進をすることができます。この時ばかりは思い切った割引やプレゼントを出しても良いと思います。

なぜなら、通常は新規客が再来店してくれる確率はそう高くないからです。

 

来館者の新規:リピート比率は開業からの経過年度や、業態、商圏特性(近隣か広域)などによって様々ですが、どんな施設の来館者にも必ず新規客が一定割合含まれています。

もしこの新規客が高い確率でリピート客化するなら、単純に考えて来館客数は増えていくはずです。それがあまり増えない、あるいは減っているとしたら、残念ながら新規客がなかなか定着してくれていないのが現実ということです。

そこを変えていければ、新たなリピート客がどんどん積み上がり、全体客数が増えていく。とてもシンプルな理屈だと思います。

 

そのためにも新規客を見分けて区別するということが、すべてのはじまりです。

見分けて区別すると言っても、うちはフロントが券売機方式だから難しい、という施設もあるかと思います。

しかし、入館受付を完全に無人化しているわけではなくて、券売機のチケットを番台で受け取ったり、券売機の近くにスタッフが立って、機械操作に不慣れなお客さまを手伝ったりしている施設は多いはずです。

つまり、お客さまの様子をよく見て「新規客かな?リピーターかな?」と判別するチャンスはあるわけです。

 

どうやら新規客らしいとなれば、「お客さま、当館のご利用は初めてですか?」と尋ねて確認することができます。

確定すれば、詳しく館内説明をしたり、「はじめてのお客さまへ 当館のご利用案内」を渡したり、新規客用の目立つリストバンドを渡したりといったことができます。

日々来館する新規客が少なければそれほど重たいオペレーション負荷にはなりませんし、逆に新規客が多いのであればそれをしっかりフォローすることで急速にリピーターを増やせる可能性があるのです。

 

私自身、以前ある現場で「入会無料キャンペーン」や「入会当日からお得!」を強調して会員を一生懸命増やそうとしたことがあるのですが、しばらくして会員の来店履歴を確認したところ、初回来店して入会したきりでその後のリピート来店が全くないお客さまがあまりにも多くて愕然としたことがあります。

特に手を打たなければ、新規客が10人いたとしても、半年以内に再来店してくれるのは2〜3人。定期的に来店するリピーターになってくれる人は1人いるのかどうか…というところなのかも知れません。

クーポンやイベントでいくら集客努力を続けても、全然リピーターになってくれないとしたらすべての努力は結局水の泡です。

今日来てくれた新規のお客さまに、いかにして自店の良さを存分に体験してもらい、満足して帰っていただくか。このことが将来の客数増減の鍵を握っているのです。

 

2019年の第5回おふろ甲子園の優勝施設、「クア・アンド・ホテル 駿河健康ランド(静岡県)」は、決勝大会プレゼンの際に「新規客向けのアンケートを実施している」と言っていました。

新規客にアンケートを書いてもらうということは、新規客を見分けて、アンケートをお願いしてその感想や意見を吸い上げ、さらなる新規客対応力アップに取り組んでいるということです。

 

海沿いの立地で年間60万人の集客はすごいな、と思って駿河健康ランドの商圏人口を調べてみたところ、車10分圏人口はわずかしかいなくてビックリしました。30分圏でようやく富士市や静岡市に届き、商圏人口が30万人を超えるという、マーケット的にはあまり恵まれていないエリアだったのです。

近隣だけでなく、広域や広域商圏からわざわざ来てくれるリピーターをガッチリつかんでいないと、年間60万人は到底達成できない数字です。

おふろ甲子園優勝も、こうした地道な取り組みを積み重ねた結果ということ。立地条件や設備投資は、早く成果に結びつくという意味では重要な要素ですが、温浴事業というのはそれだけで決まるものではないのです。

 

昨今はダイバーシティの時代とかパーソナライズとか小難しいことが言われていますが、新規客とリピーターという、たった2分類に区別するだけでも、温浴施設のサービスレベルは大きく変わります。

いま我々は「白い鍵」を実践していたニュージャパンサウナよりも20年以上も未来にいるのですから、そろそろ追いつかなければいけないのではないでしょうか。

 

 

[望月 義尚(モチヅキ ヨシヒサ)プロフィール]

温浴施設の経営コンサルタントというレアな職業を確立したパイオニア。日本中にロウリュを広めた仕掛け人でもある。温浴業界の発展が人類に健康と幸福をもたらすと信じて2006年に株式会社アクトパスを設立、代表取締役に就任。

Twitterアカウント: @spamochi

公式サイト: https://aqutpas.co.jp/

 

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