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【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第7回】ありがとうニュージャパン、ロウリュのこれから

望月 義尚

ニュージャパンSPAPLAZA

 

◆文化の歩みと共に、語彙は細分化していく

今日は横浜天然温泉満天の湯の休館日イベント(テントサウナ)にお邪魔しました。

ちょうど同じタイミングでテントサウナ内に居合わせたアウフグースプロフェッショナルチームの五塔熱子さんと、「アウフグース」「ロウリュ」「熱波」という言葉について話をしました。

年末のOYUGIWAのイベントで五塔さんにお会いした時、ひとしきりアウフグースのタオルパフォーマンスをやってくれた後に、「最後に、日本式の熱波をやります!」と言ってお客様ひとり一人に縦扇ぎ(ストレートスイング)で強い風を送ってくれたので、彼女が「アウフグース」と「熱波」という言葉を使い分けているな、と思ったのです。

言葉というのは生きており、その場所や時代で意味を変えていきます。辞書に書いてある定義が絶対というわけでもなく、誤用されているうちにそちらが定着してしまうことも多々あります。和製英語なんて間違いのオンパレードですから(笑)。

さて、少し話を整理しますと、「アウフグース(Aufguss)」というのはドイツ語で、独和辞典を引けば「注入」と出てきます。ドイツのアウフグースは、アロマ水を使うこととアウフギーサーによるタオルパフォーマンスが特徴です。

日本で初めて本格的なサウナストーブへの注水とタオルパフォーマンスをスタートしたのは、ご存知大阪のニュージャパンサウナ。

やっていることはアロマ水をサウナストーブにかけつつ、軽快なトークとタオルパフォーマンスですから、まさしくドイツ式アウフグースそのものだったのですが、ニュージャパンサウナではそれをフィンランド語の「ロウリュ(loyly)」という言葉で表現していました。

その理由は、今から25年くらい昔のことになりますが、なんばのニュージャパンサウナをお手伝いしていた時に、当時の中野佳則副社長から聞きました。曰く、「ドイツ語のアウフグースという言葉は小難しく聞こえる。サウナの本場フィンランドのロウリュの方が言い易く、覚えやすい」から。

フィンランド語のロウリュは、水をかけたストーブから立ち上る蒸気のことを指します。フィンランドのサウナ文化は日常生活に根差しており、ホームサウナ、プライベートサウナが主流です。ドイツや日本のような商業施設ではありませんから、当然トークやパフォーマンスはありません。自分たちで水をかけ、タオルで扇いだりしないで、静かに蒸気浴を愉しむのです。

つまり、ニュージャパンはドイツ式の商業的な演出と、本場フィンランドのシンプルな言葉の良いとこ取りをして、あえて誤用したのです。

その話を聞く以前に、私はセミナーなど機会あるごとに「ニュージャパンサウナのロウリュはすごい」という話を何百人もの人に語りまくっていましたので、もう引っ込みがつかず、その誤用の片棒を担がされることになりました。

「アウフグース」という言葉は封印して、「ロウリュ」一本で普及活動を続けることになったのです。

その後、神奈川県鶴見区にあるファンタジーサウナ&スパおふろの国(通称フロクニ)を起点に、「熱波」という言葉が生まれました。

どこか厳かで真面目な感じのするヨーロッパ式と違って、日本の熱波はお祭り騒ぎのような賑やかなサウナイベントです。タオルやうちわを使って扇ぎますが、アウフグースのように扇ぎ技を見せるパフォーマンスというよりは、強い風を送って熱さを愉しむスタイル。

熱波はフィンランド式ロウリュというよりはドイツ式アウフグースに近いスタイルですが、アウフグースとも違う日本独自の進化を遂げています。

昨今は空前のサウナブームと言われ、多くの人がサウナでの蒸気浴を知るようになりましたが、黎明期から25年経った今、これまで牽引してくれたニュージャパンサウナに心から感謝しつつ、もう普及のために無理にロウリュという言葉に一本化して誤用を続けなくても良いのではないかと思うようになったのです。

アウフグースとは、アロマやタオルパフォーマンスを駆使して演出するドイツ式イベント。

ロウリュとは、自分で静かに蒸気浴を愉しむこと。

熱波とは、日本のお祭り文化とサウナ文化が融合した、熱い風を愉しむイベント。

このように、それぞれの言葉を使い分けるべき時代になっているのではないでしょうか。

私自身がこれまでさんざん使ってきた「セルフロウリュ」という言葉も、誤用の上塗りです。フィンランド人からするとちょっと何を言っているのかわからない意味不明なニホンゴでしょうから、もう使うのをやめようかなと思っています。

望月 義尚

ととのいイスだらけのドイツ温浴施設

 

 

◆蒸気浴は次のステージへ

「ファンタジーサウナ&スパおふろの国」といえば、エンターテイメント性の高いサウナイベントを開催してきた日本の熱波の草分けと言うべき施設ですが、昨年そのフロクニのイベントに大きな変化がありました。

それは、自社スタッフによる平日熱波イベント(通称ハマ熱波)を一旦終了するということです。その理由として、プロ熱波師とのパフォーマンス力の格差、お客様の期待値に応えられないということが挙げられていました。

今はそれだけ蒸気浴(ロウリュ・熱波・アウフグース)への理解が進み、お客様の要求水準が上がってしまったのは間違いありません。

首都圏ではロウリュイベントを開催する施設がもはや数えきれないほどとなり、それぞれが日々工夫をこらしてレベルアップに勤しんでいます。

ロウリュをやっていればそれだけで珍しかった時代、単に水を掛けてサウナ室の空気をかき回しただけでお客様をビックリさせられた時代は過ぎ去りつつあるのです。

時代が過ぎ去ると言っても、ロウリュ人気が終わるということではありません。

90年代に大阪のニュージャパンサウナで本格的なロウリュイベントが導入されてから、長い年月をかけてようやくここまで普及してきたのですから、もはや一過性の流行り廃りではありません。ようやく導入期から成長期へと移行したところです。

ライフサイクルは、上りのカーブが急であるほど下りも急になると言われます。逆に時間をかけて緩やかに上昇してきたライフサイクルカーブはその先も長く続いていくのです。

今後もサウナイベントに牽引されながら、サウナがさらに盛り上がっていくのでしょう。

ではこれから日本のサウナイベントはどのように変化していくのでしょうか。それは先進事例を見ていればある程度予想がつきます。

 

(1)開催頻度

いま日本で最もロウリュの開催頻度が高いのは神戸サウナ&スパ。20分おき、1日に計61回も開催していますので、圧倒的日本一です。そこまでやるためには、ロウリュのために投入するスタッフの人件費も相当なものになります。それができる施設は限られるでしょう。

しかし、オートロウリュや、水掛けだけでパフォーマンスなし、セルフロウリュなどの組み合わせで、いつ行ってもロウリュが楽しめる状態にはなっていくと思われます。

今後ロウリュを目的に温浴施設に行く人が増えれば、いつどんなタイミングで利用してもロウリュが楽しめなければ不満になってしまいますから、そうならざるを得ないのです。

 

(2)バリエーション

現在日本ではアロマが日替わりで変化する程度のバリエーションとしている施設が多いですが、これももっとエスカレートしていきます。アロマだけではなく、掛ける水の量、1回あたり時間、トークやタオルパフォーマンスなどを変化させて、お客さまを楽しませ、お客さまは自分の好みでどのイベントに参加するのかを選ぶようになっていきます。

以前ドイツに視察に行った時に、そのサウナ室のバリエーションとアウフグースイベントのレベルが高いことに圧倒されたのですが、ドイツではいくつものサウナ室を駆使してさまざまなアウフグースイベントを開催しており、そのプログラムを掲示しています。

アロマだけでなくアウフグースイベントの途中で塩やオリーブオイル、泥などを配布することもあります。それらをアウフグース中に肌に塗ることで浸透効果を高めているのでしょう。

 

(3)二面性

ドイツでは、上記のように時間と水の量による強度のバリエーション、さらにアロマやスキンケアアイテムを使うなどをしながら、真面目路線で美と健康の改善効果を狙う「クラシックアウフグース」と、トークやタオルパフォーマンス、音や光の演出などを組み合わせたエンターテイメント型の「ショウアウフグース」という明確な2つの方向性があります。

日本でもおふろの国の熱波イベントに代表されるエンターテイメント型と、ととのうための真面目路線という二面性がだんだんハッキリしてくるのではないかと思います。

 

(4)地方へ波及

上記では横浜、神戸、そしてドイツの事例をご紹介しましたが、先進地で起きていることはいずれ地方各地へと波及していきます。まだロウリュが珍しい地域では、今後どうなるかという流れが分かってるだけに狙い目です。

 

[望月 義尚(モチヅキ ヨシヒサ)プロフィール]

望月 義尚

温浴施設の経営コンサルタントというレアな職業を確立したパイオニア。日本中にロウリュを広めた仕掛け人でもある。温浴業界の発展が人類に健康と幸福をもたらすと信じて2006年に株式会社アクトパスを設立、代表取締役に就任。

Twitterアカウント: @spamochi

公式サイト: https://aqutpas.co.jp/

 

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