【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第2回】温浴文化とハード
ロウリュというものを初めて体験したのは1999年、大阪なんばのニュージャパンサウナSpaPlazaで受けたのですが、それは衝撃的でした。
それまでサウナというのは我慢しながら身体を温めたり汗をかくものだと思っていたのが、爽快でドラマチックな体験に変わったのです。
それからセミナーや研究会、顧問先で事あるごとに「ロウリュをやりましょう」「サウナファンが増えますよ」と焚きつけてきました。
当時日本でロウリュをやっていたのは、ニュージャパンサウナ(大阪市)と神戸サウナ(神戸市)、そしてウェルビー(名古屋市)の3社だけでした。いずれも都市型サウナ業態。
温浴コンサルティングを始めて数年が経過し、セミナーなどを通じた健康ランドやスーパー銭湯とのお付き合いがすでに数百社に拡がっていましたので、サウナを持っている業界全体にロウリュの素晴らしさをどんどん広めたいと考えていました。
ところが、その目論見はなかなかうまく行きません。
理由はいくつかありました。
ひとつはストーブの問題。
日本で普及しているサウナストーブはガス遠赤ストーブが多いのですが、これはサウナストーンを使っておらず、水をかけて水蒸気を発生させられるような構造ではなかったのです。
当時はISNESSはもとより、ストーブを改造しようという発想もなく、霧吹きで水を噴霧してみたりしたのですが当然水蒸気の量が足りず、ロウリュ体験には程遠い。
ストーブ交換となれば多額の費用がかかってしまいますし、ロウリュだけのためにまだ使えるガス遠赤ストーブを交換しようという人もいませんでした。
電気ストーブの場合でも、「水をかけたら故障する」と考えられ、専用ストーブ以外を水をかけても大丈夫な仕様に改造するのは難しいことと思われていました。
もうひとつは運用の問題。
細かい運用ノウハウ、スタッフの育成、他の業務への影響なども考えると、単にサウナストーンに水をかけてみましょう、といった簡単な問題ではないのです。
さらに、導入効果の問題。
今ほど一般サウナファンはいない時代で、サウナに入るのは熱いサウナと冷たい水風呂が好きな変わった人たちだけでしたから、その人たちはロウリュなどなくても黙ってサウナに入り続けます。
そうでない人たちがサウナストーンに水をかけたくらいで寄ってきたり、リピーターになってくれたりするのか?と考えると、プラス効果がイメージしにくかったのです。
私が大手コンサルティング会社から独立して株式会社アクトパスを創業したのは2006年なのですが、その年末に書いたブログには、全国のロウリュ体験ができる施設一覧が記載されています。
・ホテルマリックスラグーン(宮崎市)
・四国健康村(香川県丸亀市)
・神戸SPA&SAUNA(兵庫県神戸市)
・ニュージャパンSPA PLAZA(大阪府大阪市)
・延羽の湯(大阪府羽曳野市)
・あがりゃんせ(滋賀県大津市)
・サウナウェルビー(愛知県名古屋市)
・小京都の湯(愛知県西尾市)
・太古の湯(神奈川県平塚市)
・SKYSPA YOKOHAMA(神奈川県横浜市)
・Spa LaQua(東京都文京区)
・庭の湯(東京都練馬区)
・和みの湯 湯~とぴあ(東京都杉並区)
・花和楽の湯(埼玉県小川町)
全国でわずか14施設。1999年の初体験から7年でたったの11施設しか増えていません。
そのくらい、ロウリュサービスを導入してもらうのはハードルが高かったのです。
その後もセミナーで紹介したり、導入研修をしたりしてコツコツと増やしていき、ストーブ問題へのソリューションとして運搬式水蒸気発生器「熱岩石」を開発したのが2013年。
同時期のブログでは「ロウリュ実施店舗がまもなく100施設に!?」と書いています。
http://blog.aqutpas.com/2013/07/100-e92b.html
そこから先はあれよあれよという間にロウリュ実施店舗数が増えて行きました。
「日本全国ロウリュ事典」というサイトを作ってロウリュ実施店舗をカウントしていたのですが、177店舗まで数えたところで増加ペースに追いつけなくなり、2017年、恵比寿のドシー℃の紹介を最後に数え続けるのを断念しました。
https://loyly.jp/
振り返ればロウリュ初体験から22年。
いまやサウナファンでロウリュという言葉を知らない人はいないと思いますが、そうなるまでにはずいぶんと長い時間が必要だったのです。
温浴業界への普及という意味で、もうひとつ、岩盤浴の話もご紹介したいと思います。
岩盤浴は秋田県の玉川温泉が発祥の地と言われますが、私が岩盤浴の存在を知ったのは2000年。その当時で玉川温泉含めて日本に3箇所と言われていました。
業績が低迷している群馬県のスーパー銭湯に起死回生の策として岩盤浴(当時は「イオン風呂」と名付けていました)を導入し、成功事例としてセミナー発表したのが2001年。
あっという間にブームとなり、5年後の2006年に岩盤浴バッシング事件が起きた時には全国に2,000件(単独・複合施設合わせて)以上と言われていました。
岩盤浴への設備投資は1床およそ100万円と言われており、どこも10床から20床の規模はありましたから、単純に計算して1000万円から2000万円という投資額になります。
ロウリュ可能なサウナストーブに改造したり交換するのにそんな大きな費用はかかりませんから、設備投資としてはロウリュの方がずっと軽いのですが、ロウリュは日本に3件の状態から7年で11件。
20年かかってもまだ数百件。
岩盤浴は日本に3件と言われた時からたった5年で2,000件。
この普及速度の違いはどこから来るのでしょうか。
私が考えるに、それは文化とハードの違いではないでしょうか。ロウリュの普及はフィンランドをはじめとするヨーロッパのサウナ文化を日本の温浴文化が取り込んでいくプロセス。
そこには経営者の理解、運用ノウハウ、そしてユーザー側の理解など多様な側面がついてきます。
一方、岩盤浴は導入事例から費用対効果を確かめて、工事を決めれば誰でもスタートできます。
最近はソフト面の工夫を凝らした事例も増えてきましたが、基本はハード先行で導入できるものです。
ハード先行ならあっという間にブームになる可能性があるが、文化の浸透には時間がかかる。そう理解しています。
もうひとつ言うなら、登りが急峻な山は下りも急で、登りが緩やかな山は下りも緩やか。つまり、普及に時間のかかっていることは長期的に定着するが、急激なブームは冷めるのもまた早いということです。
ニュージャパンサウナが初めて日本に持ち込んだといわれるロウリュは、オートロウリュ、セルフロウリュ、熱波、アウフグース…といろいろな方向に変化しながら、これからもずっと緩やかに拡がり続けていくことでしょう。
望月 義尚(モチヅキ ヨシヒサ)
温浴施設の経営コンサルタントというレアな職業を確立したパイオニア。日本中にロウリュを広めた仕掛け人でもある。温浴業界の発展が人類に健康と幸福をもたらすと信じて2006年に株式会社アクトパスを設立、代表取締役に就任。
Twitterアカウント: @spamochi
公式サイト: https://aqutpas.co.jp/
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