【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第3回】サウナとダイエットと忖度
漫画『あしたのジョー』(高森朝雄:原作/ちばてつや:作画)の脇役ヒーロー、力石徹(りきいし・とおる)は、バンタム級の矢吹ジョーとの対決のために、元々のウェルター級から13kgの過酷な減量を敢行しました。
熱いサウナの中でのシャドーボクシングや、水を飲めないよう水道の栓を針金でグルグル巻きといったシーンは当時の漫画やアニメを見た人なら印象に残っていると思います。
階級制が厳格なボクシングの試合前の減量は、運動能力を低下させずに短期的に体重を落とすために、体内の水分を減らすことに主眼を置いています。水分補給を制限しながら無理やり汗を出すといったことをするのです。
一歩間違えれば脱水症になりかねない危険性がありますので、普通の人はボクサーの減量法は真似しない方がいいでしょう。
ところで、「サウナに入っても汗が出て体重が一時的に減るだけで、痩せないからダイエットには効果がない」という説を見聞きしたことがある人は多いと思います。
ボクサーも計量にパスした後は好きなように飲み食いして、体重をかなり(多い人は何kgも)戻して試合に臨むそうです。
水分の出入りによる体重の増減はダイエットに意味がなさそうにも思えますが、本当にそうなのでしょうか。
実は私、ちょうどこの2週間(2020年9月5日から9月19日まで)断食をやっておりました。
目的は心身のリセットだったのですが、期間中は食べ物を一切摂らず、水は飲みたいだけ飲み、身体のだるさや立ち眩みを感じた時は塩を少々舐めるという生活を続けた結果、体重は13kg減りました。偶然ですが、ちょうど力石徹の減量幅と一緒でした。(笑)
14日間の断食期間中、仕事は普通にやり続けましたし、調査や自分の意思でサウナに入った日は4日間ありましたが、いたって元気でした。
食べ物を食べないと、塩分が身体に入ってきません。
しかし汗や尿から塩分は抜けていきますので、そのままだと体内の塩分濃度が低くなって低ナトリウム血症になりますので、そうならないために水分も抜けていくのです。
最初の3日間くらいの断食初期は急激に体重が落ちます。
私の場合は毎日1kg以上落ちるのですが、これは上記の塩分と水分が抜けていくことが最も大きく影響しています。
その後も体重はどんどん減っていきますが、その段階では脂質代謝モードで体脂肪をエネルギーに変換することと、水分の減少が半々くらいでしょうか。
つまり、13kg減ったといっても、半分以上は水分の減少による体重減なのであろうと思われます。
「痩せる」ということは、体内の余分な水分と脂肪分を減らすということがセットなのです。
考えてみれば、世間で「ダイエットしたい」と言っている人は、より健康的でありたい、より美しく(カッコ良く)ありたい、という理由でダイエットを考えているのが大半であり、体脂肪を何%にしたいとか、ボクサーのように体重を何kgまで落とさなければならないと考えている人は少ないと思います。
だとしたら、サウナによる発汗で水分を減少させてむくみが取れることも、十分ダイエットの一環だということです。
しかも発汗によって余計な塩分も排出され、さらに汗腺の働きが活発になって汗をかきやすい体質になり、日常的にも水分の排出が促される。
これは「痩せたい」願いの実現に近づいていること以外の何物でもありません。
さらに言えば、血行促進や加温によるHSP(ヒートショックプロテイン)などによって、代謝が上がり脂肪が燃焼して痩せやすい体質になる効果があるとも言われています。
サウナ室内で脂肪が燃焼するわけではなくても、ダイエットを効果的に進めるためには、身体を温め、汗を流すことが極めて重要なのです。
つまり、「サウナでダイエット」は堂々と言っても良いことであり、ダイエット願望のある人には高額なパーソナルトレーニングやエステ、あやしいサプリメントに頼らなくても、食事を減らしてサウナに入れば経済的に健康的に痩せますよ!とPRしたら良いのです。
もちろん、薬機法や景品表示法に違反しないよう、表現に注意は必要ですが。
ダイエット市場規模は統計上は把握されていませんが、ちょっと古い2015年5月30日号の週刊ダイヤモンドの記事では、関連市場を含めると年間2兆円規模のマーケットであることが指摘されています。
ダイエット食品/サプリメント市場 計6200億円
トクホ(特定保健用食品) 3790億円
ダイエット食品 1476億円
栄養機能食品(サプリメントなど) 975億円
フィットネスジム市場 計4200億円
プライベートジム 200億円~
健康管理市場 計1700億円
セルフケア健康機器(体重計など) 593億円
特定保健指導サービス 735億円
フィットネス機器 380億円
引用:週刊ダイヤモンド https://diamond.jp/list/dw?year=2015
温浴市場は入浴料に飲食、マッサージ、その他付帯売上を合わせてもおよそ2兆円ですので、同じくらい。
うかうかしていると追い抜かれます。
5年前の記事ですから、もう追い抜かれているのかも知れません。
「サウナでは痩せない」。
そんな迷信が拡がったのは、競合マーケットの恐るべき陰謀なのかも知れません。
そんな迷信に忖度して遠慮している場合ではないのです。
「忖度」と言えば、温浴と健康改善については、昔の温浴業界はもっと主張が強かったように思います。
温泉の効能はもとより、遠赤外線、海水ミネラル、塩、ラジウム鉱石、ラドン、トロン、ミネラル鉱石、EM、波動、電子、酸化還元…経営者が自ら体験して惚れ込んだ健康改善法を具現化した、個性的な温浴施設がたくさんありました。
今見れば「あぶない表現」も多かったのかも知れませんが、その主張がそれぞれの施設の個性となっていましたし、経営者のキャラクターがにじみ出ていて楽しかったことを思い出します。
何を主張したところで、所詮風呂に入ってるだけですのでたいして罪がないと思うのですが、それらの個性的施設の多くは「非科学的」「医学的なエビデンスがない」といった圧力に忖度して、いつしか声が小さくなっていったように感じます。
今は源泉かけ流しが流行れば猫も杓子も源泉かけ流し。
本場フィンランド式サウナや冷たい水風呂が注目されれば業界全体が右へ倣え。
あぶない表現を避け、金太郎飴のように成功事例に追従する個性のない施設が多くなってしまいました。
製薬業界11兆円。
国民医療費40兆円。巨大な産業の圧力に、日本経済も庶民の生活や昔ながらの知恵に根ざした健康法も歪められてしまっているような気がするのは私だけでしょうか。
ダイエットにしても健康改善効果にしても、温浴業界が忖度をやめてそれぞれの主張を強くするようになれば、同質競争がなくなり、温浴市場が拡大するだけでなく、日本の未来がもっと明るくなり、国民の健康が守られることにもつながるのではないかと思っています。
[望月 義尚(モチヅキ ヨシヒサ)プロフィール]
温浴施設の経営コンサルタントというレアな職業を確立したパイオニア。日本中にロウリュを広めた仕掛け人でもある。温浴業界の発展が人類に健康と幸福をもたらすと信じて2006年に株式会社アクトパスを設立、代表取締役に就任。
Twitterアカウント: @spamochi
公式サイト: https://aqutpas.co.jp/
HOME – 温泉・温浴事業のベストパートナー|株式会社アクトパス公式サイト