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【サウナのサチコ 裸の粘土サウナー/第5回】最終回でやっとサ活投稿

どうも。タイトル通り最終回にして初めての、真面目なサ活投稿です。サチコは一体どこの温浴施設を取り上げるのか。

サウナのサチコ

もちろん埼玉です。「冨美の湯」です。冨は旧字体です。冨美の湯はJR武蔵野線、あるいは京浜東北線の南浦和駅東口からバスに乗り、円正寺というバス停で降ります。そのバスに乗って驚いたのがこれ。

サウナのサチコ

手書きで「つり革、手すりにおつかまりください」と窓に張り紙がしてあります。運転手さんが書いたのでしょうか。褒めて良いのかどうか微妙な文字です。
冨美の湯は円正寺からすぐとありましたが、「すぐ」という言葉を信じない私。きっとかなり歩くに違いありません。と思っていたら、バス停に着く前にすでに「冨美の湯」の看板が見えてきました。安心感と嬉しさに「ここ降ります」ボタンを押し忘れていましたが、誰かがすでに押してくれていました。バス停を降りて走り出す私。いつもの条件反射です。
冨美の湯の前に立つと、もうなんとも言えない懐かしい気持ちになりました。まったく見たこともない風景なのに。

サウナのサチコ

銭湯です。紛れもなく銭湯です。どんなに絵が下手でも雑でも、この佇まいを見たら絶対銭湯だとお分かりになるでしょう。自転車も店先にたくさん並んでいました。自転車を描くのは難しいので、100円ショップでミニチュアを買って置いてみました。
話が逸れましたが、つまりここは自転車で来られる距離のお客さんが多い、常連さんが集う銭湯です。最近では銭湯もおしゃれになって私のような流行りにつられて来るサウナーが増えてきましたが、ここは違うようです。ワクワク感と緊張感が混じる気持ちを抑え、私は靴を下足箱に入れ、引き戸を開けました。すると目の前にいたのが、

サウナのサチコ

裸のおばさん3人。何で引き戸のすぐ前にいるのでしょう。驚いて立ちすくむ私に気づいたおばさん達は、おしゃべりをやめて私のことを不思議そうに見ています。沈黙が苦手な私はとっさに「あ、あの、受付は」と聞いてしまいました。銭湯なのに。するとおばさんの一人が私の横を指差して言いました。「そこだよ」と。

サウナのサチコ

真横を見ると、ご主人が番台に座っています。まったく見えていませんでした。「すみません。気がつかなくて」と謝ると、ご主人ではなくおばさん3人がゲラゲラ笑い出すという・・・。恥をかくところから始まるいつもの私のサ活です。
ご主人はじっと俯いたままなので、「あの、お風呂とサウナをお願いします」と声をかけると少しだけ体をこちらに向けてくださいました。でも目は合わせぬまま。そして私が差し出した下足キーを受け取ってから大きめのタオルを手に取ると、いきなり流暢に料金設定とサウナまでの流れを教えてくださいました。これが見事でして、最後まで一度もつっかえることなく聞き取りやすい綺麗な発音で説明してくださるので驚きました。きっとこのセリフを何百回、何千回と繰り返してこられたのでしょう。
しかし、番台に男性が座っているのは初めてです。いえ、嫌なわけではございません。これが初の銭湯だったら多少は恥じらっていたかもしれませんが、私はもうそんな初心者でも乙女でもありませんし。一歩銭湯に足を入れたら恥じらいは無用!と言いつつ、ご主人の目の届きにくい奥のロッカーにそろそろと移動する私。背伸びしてロッカー越しに番台を見ると、ご主人は相変わらず俯いています。何か本でも読んでいるのかな。『家庭の医学』とか。なんとなくですけど。
裸になって、お借りしたサウナタオルを持ってお風呂場へと進みました。たくさんの常連さん達がすでに体を洗ったり、お風呂に浸かったりしていて、この日はかなり密でした。みなさんご自分のお風呂グッズを持参しているのが銭湯。私ももちろん持ってきましたよ、かわいいポーチに入れて。嘘です。大抵ジップロックです。たまに食品衛生袋です。男前の私は端っこのカランで持参した石鹸を泡だて、体を洗います。鏡越しにおばあちゃんが孫の体を洗ってあげているのが見えます。その手が驚くほど大きくてぶ厚い! 思わず振り返って見ると、グローブのようなその手に、石鹸の泡をつけては孫の背中をさするように洗っています。男の子はくすぐったいのかその手から逃げてはふざけ出すので、その都度おばあちゃんが大きな声で叱るという・・・。お風呂場に響くその声に驚いているのは私だけで、他のお客さんは穏やかな顔つきのまま自分の世界に籠もっています。これが当たり前。これがここの日常なんだろうな。
体を洗い終えた私は、次は髪の毛を洗おうとシャンプーとコンディショナーを取り出しました。どっちがシャンプーかなと目を凝らしてみると・・・どちらもシャンプーじゃありませんでした。もしかしてコンディショナーを二つ持ってきてしまったのかと焦りましたが、二つの袋に書いてあったのは「アフタートリートメント」の文字。つまり洗髪後にドライヤーで髪を乾かす直前につけるタイプのものでした。コンディショナーですらなかった。さすがに石鹸で髪を洗うのは嫌なので、丁寧に湯シャンしました。番台に行ってシャンプーを買えばいいんですが、たとえタオルを体に巻いていたとしても、裸で男性に声をかける勇気はなく・・・。
この日のお客さんの中で、番台のご主人を男性として意識していたのは私だけだと思います。

サウナの前にお風呂に入って体を温めようかと思いましたが、人がいっぱいだったので諦めました。でもお風呂が混んでいるところは大抵サウナが空いているはず・・・と思ってサウナ室を開けたら一人だけいました、先客が。気持ち良さそうに寝ていたのに、私が来たために飛び起きるようにして座り直していました。
ここは小さな小さなサウナです。6人入れるそうですが、二人だけでも結構近くに感じます。先客は入り口近くの上段に座っていらしたので、私は奥に入って同じく上段に座りました。小さな窓からお風呂場の入り口と、脱衣所が見えます。サウナ室から脱衣所が見える所って初めてです。熱い・・・。温度はどれくらいかなと温度計を探しましたが、どうやら先客の体の向こうにあるようで見えません。私が座っていた壁際には砂時計が二つ。一つはしっかり砂が固まっています。もう一つは3つの砂時計が一体化したもので、おそらく1分、3分、5分なのでしょうが、1分と3分の砂が固まっています。もうなんか時間なんてどうでもよくなってきました。
テレビもない、というか何もなさすぎるサウナ室で、私はぼんやり脱衣所にあるサウナの入り方の説明書きやら、ここのお風呂が軟水であることなどが書かれたものを読んでいました。汗が出て来て、バスタオルで拭うと先客はもっと汗をかいていて「ふーふー」息が漏れています。先客と水風呂タイムが被らないように互いにタイミングをずらすのですが、先客は休憩なしでサウナと水風呂を繰り返すので、3セットのうち1回は水風呂が被りそうになりました。2と3の倍数で重なるのかな、よく分からないけど。水風呂は温度がちょっと高めです。いつもの通り、正確な数字をメモするの忘れました。これが軟水かぁと思いながら水風呂の水を手で掬ってみます。うーん、私に水の良さはよくわかりません。軟水だと言われればそんな気がするし、硬水だと言われたらそうかなと思う。どなたか違いの分かる方、教えてください。繰り返しますがここは軟水であり、それがウリのようです。一番のウリは俯いたまま淀みなく料金の説明をするご主人だと思うけど。

私は銭湯サウナが好きです。埼玉の「広の湯(ひろいサウナ)」に行ってから、その良さを知りました。特に好きなのは明るいサウナです。スーパー銭湯にあるような暗めの大きなサウナももちろんいいのですが、小さい銭湯サウナなら、明るいお日様の光が差し込むところが好きです。カランからの音が届けば尚嬉し。人の気配を感じるところで一人になるのが好きなのです。

冨美の湯に行ったのは4月だったので、この時私は何を感じていたかなぁと思い出しながらこの記事を書いています。サウナの先客と目を合わせることも言葉を交わすこともなかったし、ただ一人で隅っこの方でぼんやりしてただけ。「ひろいサウナ」では何だか涙が出て来て仕方なかったけど、もうここでは涙とかじゃなく、ほんわりとした気持ちだったかな。ほんわかとふんわりの間、です。面白いことなど何にも起きないけど、辛いことも苦しいこともない。ただここに来て、ここに入って、ここに座って、ここで汗を流すだけの時間。ようやく私もサウナで余計なことを考えなくなって来たのかもしれません。目の前の固まった砂時計のように、止まった「今」という時間の中を生きているだけ。過去への後悔も未来への不安もなく、今だけを見つめていたように思います。

脱衣所に戻ると、番台は女将さんに代わっていました。しかも和服姿。先ほどのご主人といい女将さんといい、ここはキャラ濃いなぁ。女将さんはやんちゃな子どもたちに優しく声をかけています。そのやりとりを聞きながら私は着替えを済まして髪を乾かしました(持参したトリートメントをここで使用)。番台にタオルを戻すと、女将さんは「ありがとうございました」と笑顔で頭を下げてくれました。私と入れ替わりに脱衣所に入っていったのはランニング姿の若い女性。走った後の銭湯ですか、気持ち良さそうだな〜。私もやってみようかな〜(と言ってみるだけ)。

この後しばらくして私はサウナに行けなくなるのですが、今は元気になりました。前回の記事を読んで心配して声をかけてくださった方々、本当にありがとうございました。心配したからこそ何て声をかけていいのか迷ってそのまま終わった方のことも、しっかり感じています(笑

例えば私にとって鬱という病は、老眼鏡のようなものです。それをかけると手元にある細かなものはよく見えるのですが、遠くにある景色がぼやけて見えない。それをかけたまま歩き出せば転んでしまう。全体像が見えないというのはとても不安です。まぁ、老眼鏡でなくても近視メガネでもなんでもいいんですが。そういう比喩が私にはしっくりきます。
つまり私はこれまで、この老眼鏡をかけてサウナに入り続けていたようなものです。目の前の小さな問題ばかり目で追って、蒸気で曇ったレンズから必死に何かを読み取ろうとしていました。でもずっと老眼鏡をかけ続けていると頭が痛くなる。そこでようやく自分が老眼鏡をかけていたことに気がついたのです。コロナ禍で、多くの方が私と同じ老眼鏡をかけ始めていらっしゃるように感じます。そんな苦しい思いをされている方に、「サウナに行くといいよ、気持ちが楽になるよ」だなんてオススメするつもりは毛頭ありません。だってサウナ自体は何もしてくれませんから。自分を救うのは自分であり、自分を苦しめているのも自分です。老眼鏡をかけたのは自分なのです。サウナはそれをじっくり考える時間と、場所をくれるだけ。これは私の体験、体感に過ぎませんが。

そういえば先日行ったサウナで、入り口のところにメガネ置きがあるのを見かけました。ここに老眼鏡を置いたつもりになってサウナに入ってみると、とても身軽になった気がしました。次にこの冨美の湯にお邪魔する時には、裸眼でご主人を観察することができます。私は視力が1、2くらいあるのでもっとご主人を意識してしまいそうです。冨美の湯は5月24日から6月15日まで改装工事をされていたようなので、お近くの方はぜひリニューアルした冨美の湯さんに足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
珍しく、ためになる情報を書きました。最後ですから。

短い間でしたが、5回にわたって私の長い長い文章を読んでくださったサウナーの皆様、ありがとうございました。第1回のタイトルは確か、「マジで切られる5秒前」でした。その通り、サチコマジで切られたかと思われた方、安心してください。「裸の粘土サウナー」は、『月刊サウナ』でまた連載させていただくことになりました。温浴施設に置かれている『月刊サウナ』が増ページし、冨美の湯と同じようにリニューアルします。7月26日発売! 有料ですが160円です!安っ!
うちの近くのスーパーで160円のものを探したら、「いりごま」がありました。いりごまを一袋我慢すれば、『月刊サウナ』が買えます。私はいりごまを我慢できます。皆さんもきっとできます。何なら、ずっとごま油で代用できるんじゃないでしょうか。

温浴施設は今後もしばらく黙浴が続くと思われますが、一人で黙っているからこそ見えて来るサウナの、温浴施設の魅力があります。小さな出会いだってきっとあります。例えば、もし皆さんが訪れたその温浴施設に『月刊サウナ』があったなら、ぜひ手にとって見てください。ページの中のサウナのサチコと出会えます。私はいつまでもお客さんという立場を貫きながら、今後も記事を書かせていただきます。一人でサ活してきたからこそたくさんの出会いを経験し、今の私があることを決して忘れません。
それではまた。


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[サウナのサチコ プロフィール]

埼玉県在住。2020年1月よりサ活を始める。
「ととのった!」と実感するまで半年かかった不器用サウナー。
役に立たないサウナ情報(主にお客さんの話)と自作の紙粘土サウナーをnoteとインスタに投稿中。