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【天拝の郷 柴田 健太郎の 九州サウナは熱かです!/第5回】杜のアウフグース・鬼のアウフグース

天拝の郷の温浴部所の担当になって、いくつもイベントをやりましたが初めからやりたかったのはアウフグースでした。

 

でもその頃はアウフグースを受けたことも見たこともありませんでした。ただ当店では体験型のイベントをやったことが無い為、お客様に喜んで欲しくてやってみたかったのです。

 

でもアウフグースって何でしょう?

 

ドイツ語を直訳すると『注入』で、Wikipediaによると『サウナのストーブの熱い石に冷水または熱湯を注ぐこと』ということで言葉自体の意味はフィンランド語でいうロウリュという事になりますが、ドイツではアロマ水でロウリュして、その後にサウナ室の天井まで上昇した蒸気をタオルや扇子で撹拌させて均等に分散させ、体感温度を上げるプロセスまでをアウフグースと言うそうです。

 

ドイツの施設ではセルフロウリュのできるサウナは少なく、基本はスタッフがロウリュするかオートロウリュが主流です。日本でもフィンランド式のセルフロウリュのサウナが普及しておらず、施設としてはサウナで蒸気を楽しんで貰うにはフィンランド式セルフロウリュよりも、ドイツ式アウフグースのほうが導入しやすかったのだと思いますが、そのような文化のない日本にアウフグースをするのは大変だっただろうと思います。

 

ドイツには行ったことがありませんので、本場のアウフグースはどんなだろうとネットの動画を調べてみると日本で受けることのできるアウフグースとだいぶ様子が違うものが出てきました。

 

大型のサウナ室で巨大なサウナヒーターを中央に配置し、幻想的なショーのような照明の中に壮大な音楽がかかり、アウフギーサーが登場。男性は筋肉隆々で布の腰巻をして、メイクをしていたり中世の鎧のような衣装を着ていたりして、女性は華麗なドレスを身にまとい美しく、ドイツオペラのような煌びやかな装いです。アロマ水やキューゲルをサウナヒーターに入れて、音楽に合わせて優雅に大きなタオルを回しはじめ、サウナ室を舞うかのようにタオルで撹拌。タオルは生き物のように綺麗に広がって回り、上下に後ろに縦横無尽に動き、ときには宙を舞ってするりと手に戻って来ます。

それはもうエンターテインメントショーで、健康やリラックスのサウナとは全く別の物と感じました。

 

これは無理!だけどやるならこれがしたい!

 

当店には蒸気をたっぷり味わえるセルフロウリュのサウナはあるので、その隣のメインサウナ室で普通にロウリュしてタオルで撹拌しただけだと体感的にはあまり変わらない為、差別化という意味でも何か違うものが必要でした。セルフロウリュのサウナは天井が低く、ぎりぎりまで暗く、ゆっくりとした雅楽が流れており、瞑想が出来るような心静かに無心になれるサウナなので、それと対比するようなエンターテイメントなプログラムが最適でした。

 

以前おふろの国の林さんとお話をさせて頂く機会があり、色々伺わせて頂いた中で一番印象に残ったのは「もっと人間の魅力やキャラクターを出したほうがお客様は喜びますよ。施設には飽きが来ても、人にはなかなか 飽きないからね。」と言う言葉でした。当店にはあまりキャラクターを売りにするような方はあまりおらず、私もどちらかというと引っ込み思案ですが、もし表に出てお店が盛り上がるならば一肌脱いで、自分を使ってエンターテイメントしようと思いました。

 

衣装はすぐに決まりました。うちのサウナのコンセプトは前回お話したように『菅原道真と神社』なので、平安時代の装束が一番いいだろうと思いました。私は以前に旅館で務めていたこともあり、袴は着慣れていたため問題ないですし、なかなかのアニヲタなのでコスプレに対してみっともないという気持ちはなく、どちらかというと憧れているので思い切って着てみることにしました。

 

 

何か特色が欲しかったのですが、ネットの動画を見て真似ただけのアウフグースしかまだまだできないですし、体力系のアウフグースをする程の体力は運動不足の42歳のオヤジなのでありません。何かいい案がないか考えている時に、とあるお客様からある話を聞きました。

『湯らっくすのジワンのアウフグースは死ぬほど熱いけれど、それが癖になって行きたくなる。』

今は引退したのですがアジアの大砲という異名を持つ熱さに強いネパール人の熱波師がいて、人一倍ロウリュしてそれを剛腕で撹拌して、熱すぎてどんどんお客様が脱落していくという熱波師なのだが、それをその熱い熱波を求めて常連のお客様に人気になっていました。

とにかく熱いというのもお客様は喜んでくれるのだなと発見し、またサウナ好きで熱耐性が強い私ならばそれが出来るのではないかと思いました。

 

そしてアウフグースをやろうと練習を開始した最中、世界中を新型コロナウイルスが流行しました。

外出自粛期間を乗り越えてもまだウイルスに感染するリスクがあるため、アウフグースを再開した施設ではマスクをして行っていました。

当店でアウフグース始めたとしてもマスクの着用が必要でした。

 

マスクをつけるならば、せっかくなので神社の舞台で奉納される御神楽や能のように面を被ろう!

 

日本のお面の中から私が選んだのは、菅原道真公を演じられないかと思い鬼の面でした。

 

 

忠臣で優秀な道真は都で右大臣にまで上り詰めましたが、謀反を計画したとして、大宰府へ左遷され現地で没した。死後に陥れた有力者が次々と死亡し、道真が怨霊と化したと考えられ神社に祀られることになりました。

 

サウナの中で奉納する演舞として、初めは丁寧なアウフグースを行い優秀で聡明な道真公を舞い、後半で鬼の面をかぶり怨霊と化した道真公として耐えられないほどの灼熱のアウフグースを行う構成にしました。

 

サウナ室内で話をするのもウイルスの感染リスクが上がりますので、サウナ室のTVにDVDを付けて作成した映像で注意などのご案内を入れるようにしました。

DVDでは注意のみではなく、映像と音で演出をしました。前半を鎮守の杜で行うので『杜のアウフグース』とし静かな森の映像を、後半は鬼の面をかぶり荒々しく舞うので『鬼のアウフグース』とし爆音で太鼓の曲を流します。

 

他の施設でアウフグースを受けた際に一つ残念なことがあります。それはアウフグースを受けた後にたくさんのお客さんが一気に水風呂になだれ込むので、最後まで残った一番熱々の私が入る頃には小さな水風呂だと水温が少し上がってしまうことです。

 

それを解消する為に、お客様が入ったときに氷を水風呂に入れることにしました。そうすれば最後の方までキンキンの水風呂を楽しめますし、見た目にも楽しい。

それだけではつまらないので、クラッシュアイスにして頭からぶっ掛けることにしました。

一度体験したのですが、頭まで冷えてたまらなく気持ちいいです。

 

アウフグースの初日が決まり、それまでは忙しくても時間を作りアウフグースの練習をしました。どうしてもできない技は、佐世保に行きヤング熱波杯優勝のサウナサンの足立支配人に手ほどきをうけ、時にはわざわざ足立さんが直々に天拝の郷に来てくださりご教授頂きました。本当に本当に感謝です。

 

いよいよアウフグースの初日。貸し切りで人数制限をしたのですが早々に参加者で満員に、段取りに戸惑いながらも何とかスタート。なんとか杜のアウフグースが終わり、鬼の面で変身してロウリュしようとした時、ふいに鬼が丁寧にラドルで水を掛けないだろうと思い、やってはいけない事ですが桶でそのままストーンに向かって水をぶっかけました。するとどうでしょう、大きな歓声と拍手。

調子にのってやった事が今では恒例になり、おかわりまで桶で掛けるようになりました。お陰でサウナ室は回を増すごとに激熱になりましたが、そこも含めて喜んで頂いているようです。

 

宗教ではございませんが、神聖な恰好で神社サウナの中でアウフグースをやらせて頂いておりますので、お客様が楽しむことだけではなく、お客様が日々の苦しみから解放され幸せになれるよう誠心誠意お祈りして、神様にはサウナに入ることのできる平和な世の中でいられることに感謝して、毎回必死に全力で祈願しながらアウフグースをやっています。

 

目指したドイツのアウフグースとはだいぶ違いますが、精一杯エンターテインメントしています。毎回少しずつでも進化して喜んで頂けるよう試行錯誤しながらやっていますので、こちらに参加できる機会のある方は一度体験して下さい。

 

 

[柴田 健太郎 プロフィール]

柴田健太郎

 

天拝の郷アシスタントマネージャー

https://tenpainosato.com/

https://twitter.com/saunaguuji