【すみっこプレゼンツ サウナ平常心 /第2回】
![]()
「ととのいたいの」彼女は言った。
「えっととのったことないの!」とわたしは思った。
数年ぶりに飲んだ席で飛び出した会話である。
彼女はわたしの上司だった。
いくら頑張っても給料が上がらず痺れを切らしてわたしが先に前職場を辞したのが三年前。
社会人になってからの知り合いはそうそう付き合いが続くものではないが、突然彼女から連絡があった。
「やっと退職できるので近況報告も兼ねて飲もう」とのこと。
基本飲み会を断らないわたしは喜び勇んで出かけた。
彼女はわたしより少し年上だけどいつもキラキラ前向きに生きていて、三年経ってもその陽をまとった雰囲気は変わらずであった。
お互い幸いにもコロナとは無縁の職種にいるためこの御時世による食いっぱぐれはなかったが
これからの展望、これからの生き方、いつかまた仕事を一緒にやりたいねなどと話していた。
この有休消化の時期を利用してサーフィンまで始めてしまったという。
電車でサーフィン行っちゃう人なんて初めて聞いた。
行動力の化身と呼んでいいだろう。
そしてなんの拍子かわたしがサウナについてのコラムを時々書いている旨の話に及んだ時
彼女はキラキラした眼で言ったのだ。
それが冒頭のセリフである。
どうにも「サ道」というドラマを観てサウナに興味を持ったらしい。
ととのってみたいがサウナや水風呂はちょっとね、岩盤浴は好きよ、というタイプ。
ひと昔前もわたし、そうであった。
今では岩盤浴がまどろっこしいカラダになってしまったが水風呂怖いっていうのは、わかる。
サウナ業界の方と関わるようになって自分も経験しとかんとと思ったのが全ての始まりだ。
良いも悪いも経験してみないとわからないものだ。
わたしの周りにはサウナ好き、水風呂好き、という人はいなかった。
普通に話していてサウナに持っていく会話力がないのもあるのだが。
えてして、横浜駅からアクセスのよいあの施設にお世話になることとなった。
![]()
横浜に居住していれば待ち合わせは横浜駅が1番カドが立たないと思う。
温浴施設といえば郊外にドカンと建つものだという概念を覆してくれた。
しかも子供がいない。
前置きが長くなったが2人連れ立ってインしたはいいが
このコロナ禍による張り紙「浴室内での会話禁止」
友人とのサウナでの分かち合いを無言で行えという。
サウナ内での会話は遠慮してね、は聞いたことあるがそうきたか。
さすが都会の施設は違う。
よくよく考えてみればコロナ禍の営業自粛を経て初めてここに来たのだった。
改装してたのは知ってたが、ついに女性サウナ室が広くなったではないか。
隣接するミストサウナのスペースを削って広くしたらしい。
ミストサウナの稼働状況はいつだってさほどでもなかったし広いサウナはよい。
ここに来て女性サウナと男性サウナの施設格差がまたひとつ狭まった感がある。
もっと声をあげれば近い将来テレビだってつくかもしれない。
残念であったのが30分に一度のアウフグースはあったものの風を受けることができなかった。
熱波が欲しかった…
余談だが受付で男性が「予約の〇〇です」と名乗っていたのだが
はて?宿泊スペースかしら、と思っていたが
入浴後施設をウロウロしていてPOPを発見
「プレミアムアウフグース(予約制)」
男性サウナにてその日、プロアウフギーサーによる予約制のアウフグースがあったのだ。
予約制のアウフグースって自体脳内にハテナが飛ぶが
なにそれ楽しそう!!と一気に男性サウナとの格差が再び広がりました。
その後女性サウナでもプレミアムアウフグース、水着着用にて催したそうです。
いずれ水着から準備せねば…
結果彼女はサウナと水風呂の組み合わせをたいそうお気に召した様子だった。
遠巻きに見守っていたがまだ首までは浸かれないものの、楽しそうにサウナと水風呂を行き来しているのが見えた。
帰りがけ、「整った。水風呂あってのサウナ」と豪語していたくらいだ。
布教は成功である。
ただ彼女もわたしと同様、サウナに入るとポンコツになるタイプのようで、帰りに揃って駅で迷った(西口工事完了により動線が大幅に変わったのを言い訳しておきたい。
後日、近所の朝サウナに行ったようでその日1日使い物にならなかったそうだ。
わたしも教訓を得て朝サウナはすまい、と心に誓ったのであった。