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コロナ休業で再認識したサウナの魅力とは? トントン先生(サウナ弁護士)× 原山壮太さん(日本サウナ総研)古参サウナー特別対談

 

新型コロナウイルスの感染拡大により、サウナ業界も大きな打撃を受けています。多くのサウナ施設や銭湯が休業を余儀なくされ、再開後も客足は鈍ったまま。折からのサウナブームも、水を差されたような形になってしまいました。

そこで、今一度サウナの魅力を発信すべく、古参のサウナーによる対談を実施。ブログ「湯守日記」で全国の名サウナを発掘してきた“サウナ弁護士”ことトントン先生と、30年来のサウナ好きで、一般社団法人「日本サウナ総研」の研究員でもある“サウナジャンキー”こと原山壮太さん。サウナがつないだ友人同士でもあるお二人に、たっぷりお話を伺いました。

緊急事態宣言を受けての休業・再開を経て、改めて感じたサウナの魅力、昨今のサウナの盛り上がりに対して思うこと、サウナを日常的な文化として広げるために必要なこと。二人の率直な言葉には、サウナに対する愛と提言が詰まっていました。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)

 

 

水風呂から教わった、挑戦することの大切さ

 

――まずは、お二人のサウナ歴をお聞かせください。原山さんからお願いします。

 

原山さん:子供の頃からサウナ好きの父に連れられて、たまに行っていました。その後、17歳の時に水風呂の気持ちよさを知り、以来30年以上にわたって入り続けています。一時期、仕事が多忙だった頃は「逃げ場所」として会社近くのサウナを使っていましたが、ここ10年くらいは純粋に楽しめるようになりました。各地域に赴き、銭湯やサウナを見つけることが楽しくなっていったんです。

▲原山壮太さん ※対談はリモートで行いました

 

――なかでも、特にお気に入りのサウナはありますか?

原山さん:好きな施設はたくさんありますが、一番はやはり家に近いサウナですよね。半年ほど前に東京から関西に引っ越してきたんですが、こっちは銭湯やサウナが充実していて最高です。特に、いま住んでいる梅田(大阪府)と三宮(兵庫県)の中間あたりは、酒どころで水がいいんですよ。「六甲の水」をベースにした水風呂の銭湯もたくさんあって、レベルはクソ高いですよ。なかでも私が日本一のサウナだと思っているのは「神戸サウナ」。日常使いは近くの銭湯で、ちょっと贅沢したい時に神戸サウナへ行っています。完全に、ライフステージがひとつ上がった感じがしますね。

 

――神戸サウナ、最高ですよね。ちなみに、関東と関西で、サウナ利用者の特徴は違ったりするものですか?

原山さん:関西の人は入り方の「クセ」が強い気がしますね。サウナに入る時のルーティンが研ぎ澄まされすぎて凄いことになっている。例えば、サウナベンチの端っこに、四つん這いになっている人とか。ベンチの本当にキワキワの部分、落ちそうなところを攻めているんです(笑)。

 

トントン先生:なんだそれ。おもしろいな。

 

原山さん:各々が自分なりの「気持ちのいい入り方」を追求していて、人と比べない。所作も洗練されていて、かっこいいんですよ。関西のサウナーは、そういう人が多いように感じます。

 

――確かにかっこいい……かもしれない。では、トントン先生のサウナ歴も教えていただけますか?

 

トントン先生:本格的にサウナに入り始めたのは40歳からです。いまが57歳なので、17年前ですね。それまではどちらかというと苦手で、入っても暑さに耐えきれずすぐに出ていました。水風呂も、怖くてちゃんと入ったことはなかったですね。ハマったきっかけは、飲み仲間でもある整体師と近所の銭湯に行ったこと。彼からサウナと水風呂の気持ちよさを教わったんです。以来、頻繁に入るようになり、10年前に「湯守日記」というブログを初めてからは、各地のサウナを探す楽しみも覚えました。

▲トントン先生

 

――サウナにハマるきっかけが水風呂という人は多いですが、最初は怖くてなかなか踏み出せない。トントン先生にとっての整体師さんのように、その気持ちよさを指南してくれる師匠的な人がいるといいですよね。

トントン先生:そうですね。心から感謝しています。当時は40歳で、何でも分かったつもりになっていたけど、まだまだ知らないことがあるんだなと、水風呂の気持ちよさから学びました。あまりに感動したので、翌年の年賀状に「食わず嫌いをせず、どんどん新しいことに挑戦していきたいです」って書きましたよ(笑)。

 

本当に「サウナブーム」だったのか?

――新型コロナウイルスによる外出自粛前、トントン先生はどれくらいのペースでサウナに通っていましたか?

トントン先生:ほぼ毎日でしたね。ただ、ここ1〜2年はサウナブームでどこも混雑するようになったので、最近はサウナ施設ではなく、主に銭湯のサウナを利用していました。

 

――サウナが盛り上がるのはいいことですが、古参のサウナーにとってはお気に入りの場所が混んでしまうというジレンマがありますよね。

トントン先生:そうそう、混んでいるところじゃ安らげませんからね。せっかく行ったのに「ただいま満員です」って張り紙があった時にうんざりしてしまって、しばらく足が遠のいていました。

 

原山さん:東京の施設はどこも混んでいるみたいだから、「トントン先生かわいそうだな」と思っていました。関西は全然そんなことないですからね。神戸サウナですら、夜はサウナ室に1人だけの時がありますから。1人だとドアの開閉がないから、足の裏が火傷するくらい熱くなってますよ。

 

トントン先生:すっげーうらやましい! 関西はブーム起きてないの?

 

原山さん:逆に言うと、東京も本当にブームなんですかね? ツイッター界隈で盛り上がっているだけじゃないかなという気がするんですけど。少なくとも全国的なブームではないと思います。

 

トントン先生:確かに。そもそも東京だってサウナ施設がさほど多いわけじゃないから、みんながそこに殺到したら、そりゃあ混むよね。

 

原山さん:今はたまたま集中しているだけじゃないですかね。これを言うと身も蓋もないけど、「そういう時期もあるよね」ってだけだと思います。

 

 

新規のサウナーに感じること

――お二人は、新規のサウナーを見ていて感じること、気になることはありますか?

原山さん:こういう話をすると「マウントをとるな」と言われてしまうのですが、とにかく迷惑さえかけなきゃ何をやったっていいと思うんですよ。極端にいえば、逆立ちしてサウナに入るのが気持ちいいならそうすればいい。他の人に迷惑さえかけていなければね。

 

トントン先生:僕も本当にそう思います。

 

――ただ、サウナ文化に馴染みがないと、何が迷惑なのかもなかなか分からないのでは? 明らかな禁止事項は張り紙などに明記されていますが、それ以外の「暗黙のルール」みたいなものも多いような気がします。トントン先生は、例えばどんな行為が迷惑だと感じますか?

トントン先生:例えば、グループで来て、ずっと一緒に行動することですかね。サウナに入るのも出るのも同じタイミング。そのまま3人一緒に水風呂に入ったりする。広いサウナと水風呂がある施設ならいいけど、狭い銭湯でやられてしまうと、すごく影響がでかい。個人的にはそれが一番困るかな。

 

――確かに、狭い水風呂をグループに占拠されてしまうのは困りますね。

トントン先生:そう。それに、もったいないですよね。体質や体調は人それぞれで、サウナや水風呂が気持ちよく感じられる時間やタイミングも一人ひとり違うはずなんですよ。他の人に合わせていたら、本当のよさを感じられないんじゃないかな。

 

――サウナに限らず、古参が流儀を押し付けると新規のユーザーを遠ざけてしまうのでよくないと思いますが。お二人がおっしゃっているのは、昔からその場所を愛している人に「迷惑をかけない」という至極まっとうなこと。当たり前のようですが、とても大事なポイントですね。

 

 

――そういうサウナの「お作法」みたいなものって、お二人はどう学んだんですか?

原山さん:教科書はないので、周りの人の所作を見て身につけていきましたね。サウナや銭湯によって文化も違うので、新しい施設に行くたびに(不安を感じつつ)覚えていった感じです。最近はサウナの専門誌なども出ているから新規の人も知識はあるんだけど、場所ごとのお作法までは理解できていない気がします。逆に知識をひけらかして、「俺は古参のお前らなんかよりサウナのことを分かっているんだ!」というような振る舞いさえ見られる。知っているから偉いとか、そういうことじゃないんですよね。

 

トントン先生:本当にそうだよね。僕も入り始めた頃は、地方の知らないサウナに飛び込んでいって、周りを観察しながらルールを覚えていきました。さも余裕みたいな顔をしつつ、心のなかではどうすればいいんだろう…って(笑)。

 

――例えばスナックなんかも、常連さんたちが共有している規律みたいなものがあり、一見さんは周囲の様子を伺いながらそれを学んでいくような感じですよね。サウナも同様に、現場で学んでいくものであるということでしょうか。

トントン先生:確かに、スナックに似ているかもしれませんね。

 

原山:少なくとも、サウナ室の「ヌシ」は見分けられるようになってほしいですね。初めて行く場所でも、見ていればなんとなく「この人かな?」ってわかりますもんね。

 

トントン先生:わかるわかる(笑)。

 

――「ヌシ」ならではの雰囲気みたいなものがあるんでしょうか?

原山:座っている場所、それから佇まいかな。通っていれば、何となく見極められるようになると思いますよ。

 

 

予期せぬサウナ断ちで再確認。やっぱりサウナは最高

 

――4月に緊急事態宣言が発令され、多くのサウナが休業しました。サウナに通えない期間は、どのように過ごしていましたか?

原山さん:最後まで営業していたサウナがいよいよ休業してしまってからは、自宅の熱湯風呂と水シャワーで交互浴のようなことをしていました。

 

トントン先生:僕も近所の銭湯のサウナが中止になってしまって、自宅の水風呂で我慢していましたね。それはそれで気持ちよくて、当時は「べつにサウナに行けなくても問題ないな」と思っていました。

でも、再開後にサウナに入ったら、やっぱりこれだなって。サウナ後の水風呂の爽快感は、何にも変えがたいと改めて感じましたよ。

 

原山さん:僕も同じですね。緊急事態宣言中は2〜3週間サウナに入らない期間がありました。ここ30年で初めてのことでしたけど、僕も「なきゃないで、意外と大丈夫だな」と思っていました。でも、入ってみたらやっぱり抜群に気持いい。なくてもじつは平気なんだけど、あると確実にライフステージが上がると再確認しましたね。

 

ただ、サウナに行けなくて本当に辛かった人もいると思いますよ。こんなふうに大層に語っている僕なんかよりサウナ歴が長く、日常生活の一部として欠かせないものになっている人は山ほどいらっしゃいますから。

 

トントン先生:それこそ、先ほど原山さんが話していた「クセが強い人」たちなんか、そういう感じでしょうね。

 

原山さん:だと思います。「サウナに入る」=「息を吸う」くらい欠かせないものになっている。もはや体の機能の一部ですよね。僕やトントン先生は、まだその域までは達していない。早くそうなりたいですもん。全てのサウナを制覇したり、行った数を競うのではなく、好きな施設に通い続けてそこのヌシになりたい。そして、クセが強い人になりたい。5000回くらい通わないとなれないと思うから、ものすごく長い道のりですけどね。

 

 

新型コロナウイルス対策であらわになる、施設側の接客姿勢

 

――新型コロナウイルスの流行前後で(※取材日は6月24日)、施設の雰囲気やサービスに違いを感じることはありますか?

トントン先生:僕は緊急事態宣言が解除されてから、まだ銭湯のサウナにしか行ってないけど、圧倒的に静かになりましたね。「おしゃべりは控えめに」って書いてあるから、みんな黙々と入ってサッと帰る。サウナ室が混んでいたら、密を避けるために少し待ってみたりね。個人的には、とても過ごしやすくなったと感じます。

 

――ある意味、ブーム前の状態に戻ったのかもしれません。

トントン先生:やっぱり静かなほうが心地いいよねって、気づいた人も多いんじゃないですかね。「サウナ室ではなるべく話さない」「密を避ける」みたいなことは、客足が戻ったあとも根付くといいなと思います。

 

――原山さんはいかがですか?

原山さん:今はどこも感染予防対策をしていますが、施設によってレベルの差があります。サウナに限らずですが、こういう時こそ施設側の姿勢が出ますよね。神戸サウナなんかは、やっぱり一流だなと感じる。入口に支配人がいて消毒液をかけてくれたり、巨大な空気清浄機が3台設置されていたり、ロッカーの鍵も消毒してから渡してくれます。他にも、ロッカールームが密にならないよう、着替えている人がいないことをモニターで確認してから鍵を渡してくれるし、受付に設置した飛沫防止のアクリル板も、サイズがぴったり合っていて几帳面さが出ている。

 

とにかく全てに気が利いていて、「できることは最大限やろう」という姿勢がひしひしと感じられるんです。それはイコール、僕ら利用者を気遣ってくれているということでもあるし、素晴らしいなと。

 

トントン先生:快適さや気持ちよさって、細部に現れますよね。僕も神戸サウナは清潔感があって最高の施設だと思っていたけど、原山さんの話を聞いて納得しました。利用者に対する配慮が、隅々まで行き届いているんですね。

 

 

「ホーム」のサウナを見つけ、愛してほしい

 

――新型コロナウイルスの感染拡大により、サウナブームも水を差されたような形になってしまいました。原山さんのお考えでは、そもそもブームではなかったのかもしれませんが…。今後、本当の意味でサウナが盛り上がり、ブームを超えて「生活に密着した文化」として定着するためには何が必要でしょうか?

原山さん:各々が好きなサウナ、つまりホームのサウナを大事にすることじゃないですかね。今って特に、「水風呂の温度は冷たいほどいい」とか、「サウナ室との温度差があればあるほど気持ちいい」とか、いろんな情報が溢れているじゃないですか。でも、一つのサウナに長く通い続けていると、そこがどんな温度設定だろうが、自然と自分の体に馴染んでいくんですよね。体のほうが慣れていって、いずれ自分にとってベストになる。最高のサウナを求めて探し回るのもいいですが、僕は近所の銭湯やサウナに「自分を合わせていく」ほうがいいんじゃないかなと思います。

 

トントン先生:本当にその通りですね。みんながホームのサウナに通うようになれば、一部の有名施設が混雑することもなくなるでしょうし。文化が成熟するって、そういうことじゃないかな。

あとは、「こう入ったら気持ちいいな」という、自分なりのスタイルを見つけていくのもいいと思います。先ほどの「クセ」みたいな話に近いですけどね。スタイルが確立されると、サウナがもはや生活の一部になり、より人生が豊かになると思いますよ。

 

<プロフィール>

*トントン先生(長家 広明/サウナ弁護士)
*原山 壮太(日本サウナ総研 一般社団法人日本サウナ・温冷浴総合研究所/研究員)http://saunasoken.jp/
*榎並 紀之(編集プロダクション やじろべえ/代表)https://www.yajirobe.jp/