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【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第9回】足の指の間まで

望月義尚

ずっと心の片隅にひっかかっていたことがあります。

以前、この日刊サウナ連載第5回目「サウナファンがもっと増えれば世の中が変わる」の記事中で、サウナの世界に魅了されていく人には必ずコーチが存在していたということを書きました。

私のサウナ原体験は今から20年以上前。

温浴施設コンサルの仕事をしていながらも、どちらかというとまだ温泉の方に軸足を置いていた時期に、ニュージャパンサウナからお仕事をいただき、当時の中野佳則副社長に、横について説明してもらいながらサウナとロウリュを体験し、以来サウナの魅力にとりつかれたのです。

当時スパプラザのサウナ室の特殊な構造や、フィンランドとドイツのサウナ文化の違いなどいろいろな話を教えていただいたのですが、思い出してみると、なぜそのような言い方をされたのか、今でもよく理解できていない言葉がいくつかあり、それがかえって腑に落ちずに、心に残っているのです。

そのひとつが、「水風呂の後の休憩の時は、足の指の間まで、よく拭いてから休む。」という言葉です。

教わったその時は素直に言われた通り足の指の間までタオルで丁寧に拭きました。

そしてスパプラザの露天スペースに設置された、今でも外気浴チェアNo.1と思っている「エスタンザ」に身体を預けて目を閉じると、自分が一体どこにいるのか、座っているのか宙に浮いているのかさえも分からなくなるような不思議な感覚を体験しました。

望月義尚

それまではサウナは汗をかくための部屋と思っていて、数分間加温して発汗すれば目的が達成されていたような気でいたのですが、加温→冷却→休憩というサイクルによって全く違う効果がもたらされるということが初めて理解できました。

しかし、どうして足の指の間まで拭かなければならないのでしょう?なぜわざわざそんな言い方をしたのでしょうか。

同じようなことを表現するにも、言い方は無限にあります。無限の中からどの語彙を選び、組み合わせて、どのような順序で話すのか、そこには何か理由があったはずです。

外気浴時に身体が濡れていると放熱が早く、湯冷めしやすいからという理屈は想像がつきます。

気温の低い時に風でも吹いたら、裸で濡れた状態ではすぐに寒くなってしまい存分に外気浴タイムが楽しめないので、水分はしっかり拭き取りましょう、ということなのかな?とも思ったのですが、それを言うためにわざわざ「足の指の間まで」という表現を使うものでしょうか。

あまりにも些細な疑問なので、その後確認するきっかけを失ったまま、今日に至ってしまいました。

その後ニュージャパンで教わった通り、いつも足の指の間まで拭いているかというと、実はそうでもありません。

時間や気持ちにゆとりがない時は、とにかく熱いサウナ室の上段でガツンと加温して、水風呂で一気に冷やして、ちょっと休憩して、のサイクルを3セット。そんなむさぼるような入り方でもサウナ入浴の目的の8割は達成できるように思います。濡れた身体のままで外気浴をしてしまう時もあります。

逆に余裕がある時には、ゆっくり無理せず長時間加温し、水風呂も長め。そして身体をよく拭いてから外気浴チェアに座ります。そんな時はふと思い出して足の指の間まで拭いてみるのです。

普段は気にすることもなく、刺激を受けることも少ない足の指の間をタオルで擦っていると、身体の隅々まで意識が行き渡るような気がします。

あれは単に「湯冷めしないように水分をよく拭き取れ」という意味を強調したかったんだろうか。

それとも「水で濡れた身体で座って外気浴チェアを濡らすな」というマナーなんだろうか。

あるいは「隅々まで丁寧に拭くのは自分と向き合う時間」なんだろうか。

もしかすると「足の指の間にツボ」があるんだろうか。

むさぼるような雑な入り方でも、サウナ入浴の8割は達成できると思うのですが、残り2割と足の指の間を拭く行為には、何か関係があるような気がしてならないのです。

この話を書いたことで、きっと多くのサウナーの皆さんにも「どうして足の指の間まで拭かなければならないのだろう?」という疑問が生じたことと思います。

答えが分かった方は教えてください。(笑)

ところで、最近よくサウナは入り方よりも上がりの方が難しいと感じることがあります。

最後の冷却が足りなかったために、上がってからも汗が完全に止まっておらず、服を着てからまた汗をかいてしまったり、逆に冷やし過ぎたために帰り道に寒気でゾクゾクしたり。最悪の場合風邪をひいてしまうこともあります。

うまく上がれた時は、夏でも冬でも暑さ寒さを感じることなく、爽快感と身体の軽さが長く続きます。身も心もリラックスしていて、頭脳は冴え、多幸感に包まれ、横になればぐっすり眠ることもできる。

そんな絶好調の仕上がりになれるかどうかは、入浴から上がる時の温度調整が重要な鍵を握っているようです。

どのくらい身体の深部まで熱をため込んだのかによって、どのくらい冷やすべきかが変わるのです。冷やし足りなくても、冷やし過ぎても快適ではありません。

また、夏場は多少冷やし過ぎても大丈夫ですが、冷やし足りないと汗が止まりませんし、冬場は冷やし過ぎると寒いので、少し熱を多めに残す感じが快適です。

この温度調整作業は、湯による入浴よりもずっと難しく、繊細であると感じています。施設ごとの環境と、気候と、自分の体調に合わせて温度調整を最適に行う必要があるのです。

水風呂から出た直後は、急激な温度変化で脳が混乱していますし、体表と深部の温度差も大きいので、そのまま上がると大抵温度調整がうまく行きません。外気浴で少し休みつつ、心身の状態を確かめる必要があります。

単純にサウナは熱いほどいいとか、水風呂は冷たいほどいい、と叫んでいるのはまだ入門者で、上級者は静かに足の指の間を拭きながら、最適な風呂上がりのタイミングを計っている…という感じなのかも知れません。

望月義尚


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[望月 義尚(モチヅキ ヨシヒサ)プロフィール]

望月 義尚

温浴施設の経営コンサルタントというレアな職業を確立したパイオニア。日本中にロウリュを広めた仕掛け人でもある。温浴業界の発展が人類に健康と幸福をもたらすと信じて2006年に株式会社アクトパスを設立、代表取締役に就任。

Twitterアカウント: @spamochi

公式サイト: https://aqutpas.co.jp/

 

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