【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第10回】足の裏から音が
◆初めての体験
その昔まだ自分が温浴コンサルタント駆け出しだった頃、ニュージャパンサウナの中野佳則副社長(当時)に、横について説明してもらいながらサウナとロウリュを体験して、以来サウナの魅力にとりつかれたのですが、その時に「水風呂の後の休憩の時は、足の指の間まで、よく拭いてから休む。」と教わったことを前回の記事で書きました。
どうして足の指の間まで拭かなければならないのかも、いまだに謎のままなのですが、その言葉には実はまだ続きがあるのです。
「よく拭いたら、この椅子(エスタンザ)に身体を預けて休んでください。そうすると、足の裏からストレスがシューっと音を立てて抜けていきますやろ。」
この言葉も謎だらけです。
ストレスとは、足の裏から抜けていくものなのでしょうか。
その時に何か音が出るものなのでしょうか。
試してみて欲しいのですが、普段意識することの少ない足の裏をあえて意識するために、多くの人は動かずじっとするでしょう。目を瞑るかも知れません。そして静かに足裏に何か起きているか感じ取ろうとします。
身体のどこかに余計な力が入っていたりすると足裏に意識がいきませんから、全身が脱力しているはずです。
後から知ったのですが、足裏を意識するのは気功の呼吸法で、足裏から大地の気を吸い上げてまた吐き出したり、頭頂部から天の気を取り入れて足裏に吐き出したり、といった意識を持って呼吸する訓練があるそうです。
思うに、中野佳則さんはものすごく比喩が上手い人なのでしょう。
気功の考えに基づいて教えてくれたのかどうかは分かりませんが、確かに私は身体の力を抜き、目を瞑って姿勢を正し、息を吐きながら足の裏を意識することで、浮遊感とともに深い深いリラクゼーションを体験することができたのです。
◆外気浴とは
「サウナ」→「水風呂」→「外気浴」。
この入浴サイクルはととのうためのプロセスであり、サウナーならほとんど誰でも知っている言葉だと思います。
別の言い方をすれば、「加温」→「冷却」→「休憩」。
それぞれのプロセスは心身に作用して様々な変化を及ぼすことから、サウナに求める効果や好みも人によって様々です。
様々な作用の中でも特に重要だと考えているのは、緊張と弛緩の繰り返しです。
その視点で見ると、「加温」→「冷却」→「休憩」とは、「緊張」→「大緊張」→「弛緩」でもあります。
時には100度を超える高熱となっているサウナ室は、真夏でも熱帯でも通常環境ではあり得ない異常な温度です。
その危機的環境に入った人間は強いストレスを受けて交感神経が興奮し、血管は拡張して、心拍数が亢進。呼吸は浅く早くなり、皮膚からは大量に発汗して高温環境に耐えようとします。
そして我慢の限界に達してサウナ室から脱出すると、今度は冷却です。高温の世界から一気に低温の世界に変化します。
95度から15度なら80度もの温度差。
拡張していた血管や汗腺は急激に引き締まり、温度が上昇した体内と、突然冷やされた体表に全身が混乱して強烈なストレスを受けます。
いきなりやって来たさらなる危機に、交感神経の興奮は極限まで強くなっています。
皮膚に現れる「あまみ」と呼ばれる斑模様は、身体の深部の熱を皮膚から放散しようという働きと、身体を冷やさないよう熱を封じ込めようとする働きが同時に起こっている混乱の印です。
水風呂とは大きなストレス、大きな緊張であり、本能的にそのような異常事態を回避しようとするのが普通ですから、水風呂に入るのは怖いと感じる人が多いのです。
しかし、人に誘われたり、説得や強制をされて、急冷却=大緊張を乗り越えると、その後に待っているのは大緊張の反動の深い弛緩です。
◆弛緩タイム
強いストレス環境から解放され、もう安全だということを身体が理解すると、緊張から一気に解き放たれて弛緩します。
これがディープリラクゼーション。
人は疲れたときに無意識「伸び」の動作をしますが、あれこそ一度全身の筋肉に力を入れて強く緊張させ、一気に脱力する反動で弛緩させようとする動きです。
外気浴=休憩タイムとは、大緊張の後の、究極の安心と弛緩のための時間であると言えます。
外気浴だから、露天に椅子をたくさん並べればいいんでしょとか、流行りのインフィニティチェアを置けばサウナーが喜ぶんでしょ、というのは表面的な捉え方に過ぎません。
大切なのはいかにストレスを排除し、心身を緩めきった状態になれるかどうか。
眩しさや目まぐるしい動き、うるさい音、不快な悪臭、皮膚に当たる椅子の角や素材、強過ぎる風、冷たい床材、滑る床材…休憩する環境に不安やストレスを感じたら、その環境に身を委ねて心身を弛緩させることはできません。
よい景色やぬくもりの感じられる落ち着いた照明、鳥のさえずり、川のせせらぎ、良い香り、柔らかく包まれるような座り心地、心地よいそよ風、暑さも寒さも感じずに、何の不安もなく胎内にいた赤ん坊のように安心できたら。
五感に心地よい休憩環境を作る上で、ととのい椅子を並べることはほんの第一歩に過ぎないのです。
足の裏からストレスがシューっと音を立てて抜けていく。そんな体験ができる温浴施設がこれからもっと増えて行くことを願っています。
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[望月 義尚(モチヅキ ヨシヒサ)プロフィール]
温浴施設の経営コンサルタントというレアな職業を確立したパイオニア。日本中にロウリュを広めた仕掛け人でもある。温浴業界の発展が人類に健康と幸福をもたらすと信じて2006年に株式会社アクトパスを設立、代表取締役に就任。
Twitterアカウント: @spamochi
公式サイト: https://aqutpas.co.jp/
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