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【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/最終回】温浴の喜びをすべての人に

望月 義尚

◆温浴の喜びをすべての人に

 温浴業界が発展することによって、温活(体を温めることを目標とした活動)が普及する。それが人類社会に健康と幸福をもたらす。

そう確信しつつ温浴施設のコンサルタントを続けているうちに、ずいぶんと長いこと経ってしまいました。

「レジャー白書2020(公益社団法人日本生産性本部)」によれば、温浴施設の参加人口は、2940万人。日本人のおよそ4人に1人が何らかの形で温浴施設を利用しているということです。
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/Leisure20200824_release.pdf

「日本のサウナ実態調査2021(一般社団法人 日本サウナ・温冷浴総合研究所)」によれば、1年に1回程度のライトユーザーから月に15回以上のヘビーユーザーまで合わせたサウナ愛好家は2583万人。これもおよそ4人に1人ということになります。
https://kyodonewsprwire.jp/release/202103041811

レジャー白書の方は幅広く温浴という捉え方をしていて、サウナ実態調査はサウナ入浴限定であるにも関わらず、似たようなボリュームになっているのはちょっと不思議ではありますが、どちらも全国民を対象とするような公式の統計ではないので、誤差は仕方ないでしょう。

いずれにしても、日本人の4人に1人は自宅入浴以外に、外風呂の入浴行動をしていると考えて間違いはなさそうです。

しかし、年に1回から数回程度の入浴行動ではあまり意味がありません。最低でも月1回。心身の調子を本当に変えるためには週に数回は通って欲しいところです。

もし4人に1人ではなく、ほぼすべての人が定期的に温浴施設を利用するようになったら、世の中はどうなるのでしょうか。

間違いなく、人々のストレスは減り、犯罪や自殺は激減するでしょう。

そして年間40兆円を超え、平成元年の倍以上の水準に膨らんでしまった国民医療費も激減。

みんな元気になって生涯現役で活躍する人が増えれば、年金問題の不安も小さくなります。

実に単純明快な話で、今よりずっと良い世の中になるのです。

そうなった時には温浴マーケットは今の何倍になっているのでしょう。

4人に1人がすべての人になるということは4倍。今は月1回以下のライトユーザーが6割以上ですから、全員ミドルからヘビーユーザになれば3倍。つまり、単純計算で4×3=12倍になるということです。

現在の入浴市場規模が約1兆円(アクトパス試算)だとすれば、12兆円に。大変な成長率のように見えますが、12兆円というのは国民総生産(GDP)の2%程度ですから、たいしたことはありません。

6時間睡眠が普通だとすると、人が起きている時間は18時間。入浴時間を平均30分としたら、入浴にかける時間の割合は起きている時間の3%弱ですから、経済活動もそのくらいの比率になっても何ら不思議なことではないと思います。

そう信じて、自分の人生を温浴マーケットの成長に賭けているのですが、なかなか成長してくれないどころか何故かこの10年以上はジリ貧状態。30年前に比べて、日本の公衆浴場数は2割近くも減少してしまいました。

人生を賭した仕事がこのまま敗北に終わるのは何としても避けたいので、日夜あれこれと作戦を練っています。

いつか12倍に成長した温浴マーケットの活況を見て、「あぁ、俺の人生は違っていなかった。良かった…」と言いながら死にたい。

私ひとりの力でどうにかできることではないので、皆様のお力を貸していただきたいのです。

一緒に12倍の夢を追い駆けてみませんか。(笑)

 

◆どの成長ポイントに賭けるのか

 現在の温浴業界の姿が、相似形でそのまま拡大成長していけるとは思っていません。立地条件や業態などによっても明暗が分かれることになっていくでしょう。

有望と思われる赤丸印の成長ポイントをいくつかお伝えします。

 

【小規模、低投資、小商圏化】
 かつて岩盤浴が登場してから数年間であっという間に2千店舗を超える急成長を遂げたのが忘れられません。事業者側の都合ですが、ひとつの温浴施設を作るのに10億も20億もかかっていたら、そう簡単には増えないということになります。

しかし、規模を抑えた投資額の小さい温浴施設であれば、それほど大きな不動産も要らず、投資回収のために必要な売上も小さくなるので出店しやすいのです。

スーパー銭湯の必要商圏人口は10万人以上と言われ、商圏人口の少ない地域では採算性を重視しない公共温浴施設か小さな銭湯、共同浴場しか成立できていないのが現状です。

もし、小規模低投資型の温浴業態が確立すれば、数千人から数万人の商圏人口しかない地域であっても、温浴施設が普及していけることになります。

 

【ファーストユーザーとヘビーユーザー】
 前述したように、温浴マーケット12倍という飛躍的成長を遂げさせるためには、4人に3人の温浴施設利用習慣のない人を引き込むことと、6割のライトユーザーをミドル~ヘビーユーザーに成長させることが必要です。

しかし、いまの温浴施設がやっていることは、競合店との同質競争でライトユーザーとミドルユーザーを奪い合っているだけかも知れません。そこにどれだけの成長余地があるのでしょうか。

そんなことをしているうちにジリ貧になってしまったのですから、ここは「まだ温浴を知らない人たちにどうやって温浴施設を知ってもらうか」、「せっかく自店に来てくれたけどまだしっかり習慣化していない人たちをどうやってヘビーユーザー化するのか」ということにもっと目を向ける必要があると思っています。

 

【観光資源化】
 以前、ある温浴施設を利用している時に私とサウナに出たり入ったりする入浴サイクルが近い大柄な外国人男性がいました。

他のお客さんがサウナの扉を開けて座る場所を探して覗き込んだりしていると冷気が入ってくるのですが、その外国人は「早く閉めて!」と注意したりしていて、日本人よりずっと入浴マナーを分かっています。ただ者ではないなと思い、他のお客さんが出て二人きりになったタイミングを見計らって話しかけてみました。

私「どちらの国から来たんですか?」
男「ドイツです。」
私「ドイツですか!じゃあ、ストーブに水をかけてもいいですか?」
男「もちろんです!」

ということで、すぐに水を汲んできて二人でこっそりセルフロウリュを楽しみました。ぬるめだったサウナに水蒸気が行き渡り、格段に快適になりました。

私「これはドイツではアウフグースですよね。」
男「そうです、よく知ってますね。日本のサウナはアウフグースできない…。」

そんな会話をしばらくしたのですが、きっとヨーロッパ人から見れば日本のサウナは残念なことだらけでしょう。サウナブーム到来と言っても、実態はまだまだ後進国です。

いずれコロナ禍がおさまってくれば、観光業界は必ずインバウンド需要に沸くでしょう。その波に乗ることができるのか、外国人をガッカリさせてしまうのかどうかは大きな分かれ道です。

日本の入浴文化は、海外から見れば大きな魅力を持った観光資源。温浴業界全体がその事に気づくことが、観光立国を成功させるためのターニングポイントにもなるのではないかと思っています。

 

【今だけ、ココだけ、アナタだけ】
 度々話題になる激安マッサージ店、60分2,980円は10分単位にすると約500円です。

かつては10分あたり1,000円が相場とされてきましたから、半額に価格破壊していることになります。

温浴施設では激安店の影響を受けてボディケアの売上が減少したというところが少なくありません。確かに同じようなサービスで値段が倍違ったら、どこで施術を受けるのかお客さまも考えることでしょう。

ところで、外資系ホテルやリゾートにあるスパや、高級エステと言われるところのトリートメントサービスのメニューや価格をご覧になったことがあるでしょうか。そこでは90分で20,000円を超えるような価格設定も珍しくありません。

10分単位にすると2,000円から3,000円。激安マッサージ店と比較すると4倍から6倍の開きがあります。

似たような商品・サービスなのに…と思うかも知れませんが、世の中の激安グレードと高級グレードの価格差は、4倍から6倍どころではありません。

例えば大衆車と高級車なら20倍以上、安物腕時計と高級腕時計なら1000倍以上も値段が違います。

ブランドの話を持ち出して、むやみに高級化しましょうということではないのですが、少なくとも10分1,000円とか500円といった相場感は横並びの既成概念に過ぎず、いつまでもそこにとらわれる必要はないのではないと思います。

以前、高額なトリートメントサービスを提供する店と普通のマッサージ店の何が違うのかという分析をしたことがあります。

もちろん、立地条件や店舗内装といったハードの違いもあるのですが、メニュー内容に明らかな違いがありました。温浴施設では「全身ボディケア60分5,800円」というように何の変哲もないメニューになっていますが、これが高級店になると

「Springリラックストリートメント(90分)21,200円(税込)」→マンダラスパ汐留
https://mandaraspa.tokyo/info/seasonal_202104.html

「水辺の好日 パーソナルスパプログラム(1泊2日)118,822円(税込・宿泊料別)→星のや京都
https://hoshinoya.com/kyoto/experience/waterside-relaxation/

といった感じになります。

明らかに違うのは「限定感」です。

「今だけ、ココだけ、アナタだけ」という限定感を作り出すことで特別な価値を感じさせているのです。

普通の温浴施設で高級スパとそのまま同じことができるとは言いません。しかし、10分500円というやり方がある一方で10分3000円近い料金をいただくやり方もあるのを見ていると、視界がひらけてくるような気がします。

 

 

さて、以上で私の連載は最終回となります。

普段の仕事はBtoBなので、温浴ユーザーの皆様に向けて情報発信することはあまりなかったのですが、この日刊サウナを通じてサウナに関心のある多くの方々の目に触れる機会を与えていただき、日刊サウナ編集部の皆様には心から感謝しております。

「温浴の喜びをすべての人に」。ひとりでも多くの方に共感していただけたら嬉しいです。


【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第1回】嫌われたならしょうがない
【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第2回】温浴文化とハード
【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第3回】サウナとダイエットと忖度
【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第4回】熱くて冷たいおんなたち
【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第5回】サウナファンがもっと増えれば世の中が変わる
【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第6回】白い鍵のお客さま
【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第7回】ありがとうニュージャパン、ロウリュのこれから
【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第8回】コロナがサウナを変える
【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第9回】足の指の間まで
【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第10回】足の裏から音が
【望月 義尚の 温浴コンサルタントの視点/第11回】これからどうなる、サウナ界隈


 

[望月 義尚(モチヅキ ヨシヒサ)プロフィール]

望月 義尚

温浴施設の経営コンサルタントというレアな職業を確立したパイオニア。日本中にロウリュを広めた仕掛け人でもある。温浴業界の発展が人類に健康と幸福をもたらすと信じて2006年に株式会社アクトパスを設立、代表取締役に就任。

Twitterアカウント: @spamochi

公式サイト: https://aqutpas.co.jp/

 

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